「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」最優秀映画賞は台湾映画「緑の模倣者」、マレーシア描く「アバンとアディ」が3冠
2023年11月29日 23:10
新しい国際映画祭「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」の授賞式が11月29日、那覇市のタイムスホールで行われた。台湾のジョン・ユーリン監督作「緑の模倣者」が、コンペティション部門最優秀映画賞に輝き、マレーシア出身のジン・オング監督作「アバンとアディ」が審査員賞、主演俳優賞、観客賞の3冠を獲得。審議の結果、アラスカのクジラ漁をテーマとしたドキュメンタリー「クジラと英雄」(ピート・チェルコウスキー、ジム・ウィケンズ監督)にも審査員賞が贈られた。
「緑の模倣者」は、カオ・イーフェンの短編小説が原作で、人間の姿に擬態した緑色のコガネムシの物語。主人公はアパートに侵入し、人間の行動を観察して模倣する中で、“虫”の動きを擬態する練習をしているダンサーの女性を見つける…という物語。台湾の客家語(はっかご)を用い、人間と自然の境界が曖昧化する世界観を、独創的な映像センスで撮り上げた。
ジョン監督は「この作品で伝えたいことと沖縄は相通じるものがありました。この物語で何より伝えたかったのは、多元なるエスニシティ、異なる民族が共生共存する中で、皆が意見を持ち、違うまなざしで見ていること。それぞれがどうやってお互いを受け入れ、共生していくのかがとても重要です。人と人のみならず、人とモノ、あらゆる生物にも言えることだと思います。グローバリゼーションが進む中、この沖縄という島に皆が集まったことも感動的です。この映画祭で多くの皆さんに出会えたことが嬉しく、また今後もお互い知り合い、手をたずさえて前に進むことが重要です」と、映画祭、スタッフ、家族の感謝の言葉を述べた。
審査委員長のアミール・ナデリ監督は、第1回となる同映画祭開催を最高の賛辞で称え、「今回たくさんの映画を見て、たくさんの方々と出会いました。審査員はケンカもしながら、話し合い、心を尽くして受賞作品を選びました。すべての作品に賞を与えたいと思いました」と審査の過程を振り返り、最優秀映画賞を授与した「緑の模倣者」について、「全ての作品が素晴らしかった。異なるすべての作品の中でシンプルで複雑で深い、イマジネーションを掻き立て、最もカメラワークの正しい作品だった」と評した。
最多3冠に輝いた「アバンとアディ」は、マレーシアに生まれるも、身分証明書を持っていない兄アバンと弟アディが、思いもよらぬトラブルに巻き込まれる様を描いたドラマ。11月25日に台北で行われた中華圏のアカデミー賞と称される映画賞、第60回金馬賞授賞式で主演のウー・カンレン(呉慷仁)が主演男優賞を獲得している。心を震わせる物語展開と結末が高く評価され、「観客賞をいただき、申し訳ないのは涙を流させてしまったこと。泣きながらこの作品を気に入ってくださったみなさんに感謝」「3回連続で登壇できるとは思いませんでした。すべてのクルーにとってもうれしいサプライズになると思います」と3冠受賞の喜びを語った。
「クジラと英雄」のジム・ウィケンズ監督は「アラスカの先住民族の皆さんに感謝です。彼らがこの映画撮らせて、世界届けることを許してくれました。現在、人々が干渉しあわずお互いの意見を聞き合わない現状があると思いますが。映画がきっかけとなり、魔法のように人々をつなぎ合わせると思います」とビデオメッセージを寄せた。
コンペティション部門のほか、映画製作者がプロジェクトを業界関係者にプレゼンテーションを行う、インダストリー部門Doc Edge賞で、Doc Edgeアワードをデミー・フングラ監督の「Magnetic Lettres」、Best Pitch アワードを太田信吾監督、竹中香子プロデューサーの「沼影市民プール」が受賞した。
同映画祭は、沖縄在住・台湾出身の映画監督、黄インイク(こう・いんいく)がエグゼクティブディレクターを務め、優れた映画の発掘と発信を通じ、各国の文化や民族、個々人の相互理解を深め、将来的に沖縄が環太平洋地域において新たな国際文化交流の場となることを目指し、開催された。今後も沖縄を拠点に環太平洋地域の映画産業を盛り上げる長期的な施策を構想している。
黄ディレクターは「初めての映画祭でトラブルなどもあり大変でしたが、スタッフの皆さん、100人くらいのボランティアの皆さんのおかげで、この1回目、赤ちゃんのような映画祭が生まれたことをうれしく思います。今後も長く続くと思います」と感謝を伝える。映画祭アンバサダーを務めた沖縄出身の俳優、尚玄は「胸がいっぱいです。とにかく感動しています。20年くらい俳優を続け、世界を回って映画にたずさわる中で、沖縄で映画祭をやることが夢の一つでした。それがようやく……」と、感極まり、涙を浮かべながら「ありがとうございました」と心からの感謝を述べ、会場から大きな拍手が上がった。
この日は、審査員で女優の伊藤歩、映画プロデューサーの仙頭武則、ウディネ・ファーイースト映画祭のディレクター、サブリナ・バラチェッティ氏、ハワイ国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターのベッキー・ストチェッティ氏、プログラム・ディレクターのワンダー・オン氏も登壇し、ナデリ監督とともに審査作品への激励のコメントや、新しく生まれた同映画祭の志の高さを称えていた。
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