【「イコライザー THE FINAL」評論】俳優デンゼル・ワシントンのキャリアに重なる、私刑人マッコールの生きざま

2023年10月7日 17:00


「イコライザー THE FINAL」
「イコライザー THE FINAL」

名優デンゼル・ワシントンにシニア・アクションスターという柔軟性を与えた、元CIA超人エージェントの無双サーガ。3作目へと至った今回は、彼が平穏な地に骨を埋めようとする展開を投じ、幕引きを濃厚にただよわせる。市井の弱者を救い、悪に報復をもたらす秒殺の始末人。そんな主人公の自警哲学がストーリーの中枢にまで沁み入り、同時に外殻はフィナーレの紗幕ですっぽりと覆われた印象だ。

任務遂行先のイタリアで凶弾を受けて生死をさまよい、正義行動への限界を覚えたマッコール(ワシントン)。引退の意志を強いものにしたのは、そこに住む温かな人々との接触だった。だが地元を牛耳るカモッラ(イタリア・マフィア)の後ろぎたない圧力が、静かなフェイドアウトを願う殺人マシンの予備電源を発動させる。

前作「イコライザー2」(2018)で、似た戦闘スキルを持つ同門の敵と相まみえ、シリーズにおけるバトル演出の頂点は既に極められている。加えて今回は終活のドラマだけに、過去2作に比べると多動感は控えめだ。そのぶん攻撃技の加虐さや多量の流血によってインパクトを補うかのように、死の匂いがこれまで以上に満ちたものとなっている。それがマッコールの客死を案じてるのではと、観る者に穏やかならぬ緊張を与えるのだ。なにより不撓キャラクターの双璧ジョン・ウィックが最新作「ジョン・ウィック コンセクエンス」(2023)でシリーズ継続の余白を残さなかっただけに、湿っぽいラストを想像してしまうだろう。まぁ、続編嫌いを蹴ってまでこのシリーズに入れ込むデンゼルだけに、そこまで割り切った結末を良しとはしていないが。

こうした彼の役への没頭は、ダコタ・ファニングとの19年ぶりの共演からも色濃くただよう。デンゼルと彼女の顔合わせは「マイ・ボディガード」(2004)の反復であることは疑いようがなく、作品ごとの境界をシームレスにしたような取り組みに、おのずとデンゼルの俳優キャリアへの総括を感じずにはおれない。アクティブなアクションジャンルへの参加がそれを意識させないが、彼も齢70を目前とした大ベテランだ。

限りのない暴力の連鎖に終止符を打とうとする本作の姿勢は、デンゼル・ワシントンという役者の立ち位置におのずとディゾルブする。役柄と俳優本人との密着みたいなところに論を急ぐのは短絡的だが、それを分かりつつ持ち出させてしまうところに、この作品の頑強で迷いなき人生考の美点がある。

(尾崎一男)

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