【「ジョン・ウィック コンセクエンス」評論】アクションを通じて物語を語る。高い理想が貫かれたシリーズの到達点
2023年9月23日 11:00
単刀直入に言って、筆者はこれまでのシリーズ中で一番堪能した。まるでエージェント・スミスさながらに、敵が次々と襲いかかってくる構造は変わらない。それを撃って、殴って、ぶっ刺して、足元が覚束なくなりながらも活路を見出す殺し屋ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)。同様の描写を何度も観てきたはずなのに、いつも以上に華を感じ、小粋さを堪能し、心を動かされてしまうのはなぜなんだろう。
理由の一つは、ジョンの逃亡先として日本が登場するせいか。大阪コンチネンタルホテルでの死闘は、昔の仲間シマヅ役の真田広之やその娘を演じるリナ・サワヤマの好演も相まって、我々に逆輸入のニッポンの妙味を堪能させてくれる。とりわけいつもは口を開けても「Yeah…」くらいしか発しない寡黙なジョンが「(シマヅ)コウジ・・・メイワクカケテシマッテ、スマナイ」と少し長めのセンテンスで想いを伝える愛おしさは格別だ。
さらなる新風はこれまたジョンの旧友である盲目の殺し屋ケインに尽きる。演じるドニー・イェンにとって座頭市的な役柄は「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」(16)で経験済みだが、しかしそのあり方は、戦い方から喋り方、立ち居振る舞いまで全てがガラリと違う。まったく、この人はフィジカルの超人であるばかりか、才能の引き出しがどこまでも多彩で、果てしなく深い。
かくして本作は、ジョン・ウィック抹殺を掲げるグラモン公爵(ビル・スカルスガルド)によってケインが刺客として放たれる一方、当のジョンは組織の秩序とルールを尊重しつつ、とある奇策を用いて自由を手にしようとするのだが・・・。
169分という長丁場にもかかわらず、チャド・スタエルスキ監督が紡ぐアクションはこれまで以上に表現性高く、見せ場が満載だ。特に舞台をパリに移してからは、凱旋門で車が行き交う中での肉弾戦や、はたまた石畳の階段を駆け昇りながらのバトルなど、素材の味を凝縮させた簡潔明快な力強さが湯水のように溢れ出す。
また、ケインとシマヅとジョンを巡っては、無駄な思い出話やフラッシュバックを用いず、むしろ彼らの関係性を戦いの中の表情ややりとりを通じて観客に想像させるのだ。この小粋さがたまらなくいい。
すなわち、物語の中でアクションが起こるのでなく、アクションによって物語を語る。本作はキアヌと監督が重ねてきたこれらの挑戦が、隅々まで、より高い次元で結実した一作と言えるのではないだろうか。
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