もの凄いタイミングで公開される選挙ドキュメンタリー【映画.com編集長コラム】
2023年7月27日 10:00
どの国が舞台であっても、選挙に関するドキュメンタリーは秀作が多いと感じます。とりわけ、マンネリ化(あるいは腐敗)している現職に対して新進気鋭の若い野党候補が挑む、ある種の勧善懲悪的な構図であれば鉄板の面白さと言えましょう。若くて真っ直ぐな候補者が、有権者の圧倒的な支持を得ながら選挙戦を闘う様子は、見ている側もつい応援したくなるものです。
こうした選挙ドキュメンタリーのクライマックスは、もちろん投票日、そして開票結果の発表です。全編のおよそ4分の3あたりで投票日を迎え、開票の結果が出て、当選した場合は大きなカタルシスが、落選の場合はほろ苦いけれど「次も頑張れ」的なエールのこもったエンディングを迎えることになります。
さて、今日ご紹介する映画「プレジデント」は、アフリカのジンバブエで行われた2018年の大統領選がテーマです。クーデターを経て誕生した保守の大統領に野党の若手が挑むという構図は、先に述べた勧善懲悪的なシナリオ。主人公である野党の若き候補者も人気があって、集会では大歓声を浴びています。選挙でも圧勝する予感がみなぎっています。
そしてこの映画の最初の驚きは、投票日が、本編が始まってわずか40分ほどで訪れることです。全体の3分の1しか経過していません。「もう投票なのか!」と思いつつ見ていると、次の3分の1は、投票が終了したのに「結果が発表されない」という開票作業をめぐる混乱と騒動が描かれる展開となりました。
やがて開票結果は発表されますが、敗れた側が「結果が無効だ」と主張して法廷闘争に持ち込むことに。ここが残りの3分の1です。2020年のアメリカ大統領選で、トランプ大統領が「選挙が盗まれた」って吠えていたのを思いだします。
昨年「チーム・ジンバブエのソムリエたち」というとても面白いドキュメンタリーがありました。主人公たちは、ジンバブエから難民として南アフリカに逃れてきた4人の若者たちで、主要な舞台は南アでした。
その映画の記憶が鮮やかに甦ります。彼らの母国は民主主義が機能していないようです。そして、若者は職に就けない。国を捨てて難民となる気持ちも分かる気がします。
ややネタバレを書きますが、選挙の結果は、カタルシス多めの方ではなく、残念ながらほろ苦い方でした。ところが、映画を見終わった後に「ジンバブエ、次の大統領選はいつなんだ?」って気になってググってみると、何とこれが今年(2023年)の8月23日であることが分かりました。
ネットニュースによれば、この映画でも激突したエマーソン・ムナンガグアとネルソン・チャミサの事実上の一騎討ちであろうと。
本編を見終えて、場外乱闘に突入するような気分です。この映画の第2章イベントが1カ月後に迫っているのです。私は自分のスケジュールに、8月23日の予定「ジンバブエ大統領選」と入れました。BBCなどで結果のニュースを見るのが超絶楽しみです。
そして、この映画の監督カミラ・ニールセンも、現地でこの選挙を追っかけていると確信しました。リアルな第2章もいつか映画館で見ることができることでしょう。それにしても、最高のタイミングで劇場公開を迎える「プレジデント」のおかげで、この夏は楽しみな政治イベントが増えました。映画は7月28日公開です。
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