【「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」評論】今も世界で読み継がれる児童書プチ・ニコラ。初のアニメ化は美しく切ない友情の物語。

2023年6月11日 08:00


「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」
「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」

アヌシー国際アニメ映画祭で最高賞を獲得、これまで40の言語に翻訳され累計1500万部を突破、誕生から半世紀を経た今も愛されるフランスの国民的なコミック小説「プチ・ニコラ」をアニメ化。さらには作品のクリエイターであるサンぺ(作画)とゴシニ(原作)の友情ドラマを交えて描く。

1955年パリ。イラストレーターのサンぺと作家のゴシニはある日、小学生男子のキャラクターを考案しプチ・ニコラと名付ける。彼を主人公に子ども目線でリアルな庶民の生活を描き、新聞の日曜版での連載が始まると、ニコラはたちまち人気者に。サンぺとゴシニは自分たちの思い出を物語に織り込み、プチ・ニコラはますます魅力的に成長していく。全てが順調と思われた時、ゴシニが心臓発作で呆気なくこの世を去ってしまう。

フランスの「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」の例えで呼ばれる定番の児童書。これまで3度実写化されたが、意外なことに2Dアニメ化は今回が初となる。企画当初はその原作部分のアニメと、サンぺとゴシニのドキュメンタリー映像の二段構えで企画が進んでいたが、最終的には双方を融合させて描く現在の形になった。

ユダヤ人のゴシニと地方出身者のサンぺ。それぞれの生い立ち、第2次大戦下の混乱、ニコラ誕生に至るまでのキャリアと、知られざる2人の過去が描かれ、大人も満足できる上質の友情ドラマに仕上がっている。ゴシニを失ったサンぺの回想から始まる導入部はとても切ない。ニコラを通して生と死、出会いと別れを考えさせる過程はとても自然で、子供でも飽きない構成になっている。

モノクロの原作を壊さない淡い色合い。画角に入ったキャラクターが色を持ち始めたり、横移動するカメラに追随して背景が次々と浮き上がったりと、さり気ない技術が素晴らしい。監督たちは、ゴシニの娘アンヌ(脚本)や、存命中だったサンぺ(2022年死去)のアドバイスを得て、原作に近い(例えば紙の頁をめくるような)感覚を目指したという。サンぺとゴシニ、ニコラと子供たち、パリの古い街並み、作り手がその全てに敬意と愛情を持っていることが伝わってくる。

副題「QU’EST-CE QU’ON ATTEND POUR ETRE HEUREUX ?(幸せになるのに何を待つの)」の元ネタは1937年のヒット曲で、劇中にも登場するレイ・べンチュラのユニット「ses colegiens(学友たち)」が歌っており、友情がテーマの本作にぴったりだ。時には思索的だったりと敷居が高い印象のある欧州アニメだが、本作は原作を知らなくても、十分に楽しめるように仕上がっている。ちなみに本作を製作したMEDIAWANは最近、ブラッド・ピットの会社プランBを買収している。

(本田敬)

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