ハリウッドで活躍するクリエイターの造形教室を映画.com編集部が体験 未経験でも3日間で胸像が完成!

2023年6月11日 09:00


初心者からプロまで楽しく学べる3日間
初心者からプロまで楽しく学べる3日間

パシフィック・リム」「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ、近年では「マンダロリアン」「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」など、ハリウッドでキャラクターデザインや造形師として活躍する片桐裕司さん。3月に掲載した片桐さんのキャリアについてのインタビューに続き、今回は片桐さんが主宰する「片桐裕司彫刻セミナー」を紹介します。彫刻、造形未経験の映画.com編集部スタッフ、エビタニが全3日間の講座で愛するトム・ホランドの胸像制作に挑戦、その成果はいかに?

ハリウッドで活躍、映画監督の顔も持つクリエイターの片桐裕司さん
ハリウッドで活躍、映画監督の顔も持つクリエイターの片桐裕司さん

「片桐裕司彫刻セミナー」は、2013年から年に数回、東京をはじめ全国(富山・大阪・名古屋・福岡)で開催され、日程発表後程なくして満席&キャンセル待ちとなる超人気講座。造形初心者から、学生、ゲーム、アニメや映像業界で働く現役クリエイター、海外を目指す方まで、幅広い職種、世代の受講生が集います。

セミナーは今年で10周年を迎えました。2011年の東日本大震災を受け、長年滞在していた米国から一時帰国したことや、家族の病気がきっかけでスタジオから依頼される仕事以外の活動を考え、日本での後進育成を考えたとセミナー開催の理由を片桐さんは語ります。

「今、時代は変わりつつあると思うけれど、僕の時代は『アートでは食っていけない』とか、『普通のちゃんとした仕事をしなさい』って言われることが多かったんです。そういう言葉で、夢を諦めちゃう人ってすごく多くて。堂々と『好きなことをやっていいんだよ』って言える人ってなかなかいないもの。でも、自分はその気持ちだけでずっとやってきて、もちろん苦労はあったけれど、本当に心の底からもうよかったと思っています。だから、迷っている人に堂々とその言葉を言ってあげられれば、励みになるんじゃないかな……という僕なりの復興のような気持ちもあって始めました」

「3日間で小手先のテクニックは教えませんし、もちろん完璧に作れるようにはなりません。だけどその3日間で、自分でも出来るんだと思えて、僕がいなくても何か自分でやってくれるようになってもらえればいいなと思っています」

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■<DAY1> まずは粘土に触ってみる、作りたいものの形を捉える目を養う

映画.com編集部が参加したのは「一般セミナー」という、片桐さんのセミナーが初めての受講生が各々の作りたい胸像を制作するコースです。人物、動物、オリジナルキャラまで何でもOKですが、講座参加日までに片桐さんとメールでやりとりして、何を作るか決めます。

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この日はおよそ30人近くの受講生が集まり、簡単な自己紹介からスタート。それぞれが選んだモデルの見本写真を見やすい場所に貼り、貸与される彫刻セットを前にスタンバイ。片桐さんから講座の流れが大まかに説明され、さっそく30分間で粘土で形を作っていきます。

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「今一番好きな顔の俳優」という理由でトム・ホランドを選んだエビタニ。土くれ(樹脂ですが)が、人の手によって形成されて行きます。何となく人型に見えなくもないですが……たった30分で挑んだ胸像は、古代遺跡から出土した埴輪のようなものの一歩手前という感じです。素人が3日間で完成できるのだろうか……と不安になる方もいるかもしれませんが、安心してください。この作業を経てから、片桐さんのレクチャーを聴講します。

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この日は、片桐さんから、2次元のキャラクターと立体の違いなどが、様々な実例と共に分かりやすく解説されます。大事なのは対象物を良く見ること、バランスとプロポーションが肝。肉体の流れやリズムという、動きを意識して制作するようアドバイスされます。また、受講者同士で、互いの上半身や全身をスケッチしたりと対象を捉える目を養うトレーニングも行われます。

そして片桐さんが、受講者からリクエストのあった、「ハリポタ」シリーズのダンブルドアの胸像をわずか40分で作り上げる、公開制作の一幕も。プロの仕事を目の前で見られる、貴重な時間です。

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片桐さんが40分で作ったダンブルドアの胸像
片桐さんが40分で作ったダンブルドアの胸像

片桐さんのレクチャーを受けた後は、ひたすら対象を見つめ、手を動かし、思考錯誤を繰り返し、あっという間に1日は終了。完成までの道のりはまだまだ遠そうですが、何を作るのか、作りたいのか、どのように作ればよいのか、をこの日で明確に意識できるようになります。


<エビタニ日記>
自己紹介で様々なバックボーンの方々がいることに驚き! しかもみなさん経歴すごそうだし……私は粘土を触るのなんて高校生ぶり。突然の30分間に戸惑いながら作るも、なんだこりゃ?と、何からやればいいかわからないし粘土の扱いにも苦心。その後先生の実演を見てただただ感動し、そして、自分にもできるんじゃないかと錯覚して再度チャレンジするもバランスを決めるだけで全然進まないのです……。先生の「人じゃない」という発言と周りの高度な作品群に心折れそうになりつつも、無心に何かを作るというのに久しぶりに没頭して心地よい疲れを感じて1日目終了。

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■<DAY2> 骨格の違いを理解する クリエイターになるために才能は必要か?

2日目も午前中からスタジオに集い、それぞれの作品に取り掛かります。初日よりも、だいぶ形になってきたんじゃないか……そんな気持ちで手を動かしますが、片桐さんから愛のダメ出しが入り、作った像を一旦壊してゼロから始める人も。破壊から新たな創造が生まれるのでしょう、2日目は、顔の構造についてのレクチャーが行われます。

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エビタニが制作するトム・ホランドをはじめ、レオナルド・ディカプリオケイト・ウィンスレットなど、ハリウッドスターを選んだ受講生が半数以上でしたが、韓流アイドルや芦田愛菜さんなどアジアで活躍する有名人やクリーチャーに挑戦する人も。この日は、片桐さんが西洋人と東洋人、男性と女性の骨格の違いを実技とともにレクチャーします。「テルマエ・ロマエ」で日本人は「平たい顔族」と呼ばれていましたが、額の骨や目の窪み、頬の肉のつき方などは、人種や性別で大分異なります。片桐さんが制作したマスクやモデルからもわかりやすく理解できます。

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午後もひたすら制作に取り組みます。それぞれが作りたい“顔”の内部構造である、骨格から理解することで、目鼻耳などパーツの位置やバランスを考えながら、粘土を足したり、削ったりと細部の形成に臨みます。

そして、後半に新たなレクチャーが行われます。ここでは、実技に関することではなく“才能”や、なぜ、作りたいのか? という創作のモチベーションについてのお話。ちなみに、どのレクチャーでも、片桐さんは技術や道具の使い方については一切教えません。しかし、ものの見方についてのお話や、プロの技術を実際に見ることで、皆さんの作品がぐんぐん進歩していきます。残すは後1日、完成までどのように変化していくのか楽しみです。

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<エビタニ日記>
果たして明日完成するのか不安になるが、何が悪いのかもわからず2日目スタート。先生の話を聞き、改めて自分の作品を見直してから作り直す決意をし、ヘラで半分くらい潰す!なんとなく奥行きが何かということが見えてきたものの、まだ人間には遠いような気がする。けれど何をどうすればいいのか未だ迷子。ただ絶対に1日目よりはなんとか猿人類くらいには近づいてきたかな……くらいで時間に。最後の先生の授業で創作の根底には心が大事だという話を聞き、もっと笑顔のトム・ホランドを作ろうと決めて今日も終了。家に帰るとずっと歯を食いしばりながら作っていたので口の中に口内炎が!

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■<DAY3> 笑顔、怒り、悲しみ……表情の違いを学ぶ そしていよいよ完成!

あっという間に最終日です。皆さんの作品が初日の粘土の塊から、ものすごい進化を遂げているのに驚きます。テクノロジーの進歩で今は3Dスキャナを使えば、本物そのもののような立体物を作ることが可能ですが、アナログで作ることで、作者にしか出せない形やこだわり、良い意味での癖が、作品の味になるんだなあと実感します。

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最終日のレクチャーは、笑顔や怒り、悲しみなど、人間の感情にまつわる表情の違いを片桐さんの実技と共に学びます。同じ人間の顔でも、それぞれの表情によって使う筋肉が異なると、印象も変わってきます。顔のどんな瞬間を捉えて形にしたいのか再確認できますし、途中で表情を変えてみたくなっても対応できるようになります。

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最終日は、仕上げとなる髪の毛を付ける工程に入ります。これがなかなか大変です。粘土は人間や動物の毛のようなものではないので、まずは実際の毛のボリュームや束感を形成して、その後流れを作っていくような手順となります。ここまでできればもう後は仕上げの作業に。もちろん、彫刻初心者にとっては完璧な状態ではありません。エビタニのトムホの顔面の左側を片桐さんが修正してくれました。動画をご覧ください、さすがプロの手技! このお手本通りに右半分を自力で修正して、完成です!


<エビタニ日記>
最終日にして何かが吹っ切れたのか、改めて自分の作品を見直すとダメなところがわかってくる。ちょっとだけ俯瞰して見られるようになっている! 「ここもっと深く」という先生の指摘にも、「あっ、そういうことか」とわかるようになり、没頭するにつれどんどん楽しいという感覚がわいてくる。先生から「ボブ・ホーランドくらいになってきた」と言われるくらいにはちゃんと人間の形にはなってきた!

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しかし、似せるために何が足りないのかがわからなくなる。3日目終了の1時間前、片桐先生が近づいてきて、「ちょっと半分お手本しようか」と私の胸像の左半分にコテを入れていくと、みるみるトム・ホランドに近づいていく! もうほんとにそれは魔法のようでびっくりしつつ、いったいなにをしているのか注意深く観察する。8割がた似てきた左に寄せて一生懸命右を掘り進める。そういうことか!という気づきとともに楽しくて仕方がない。

そして時間は無情にも過ぎていき、まぶたのない「サム・ホーランド」くらいが出来上がった。しかし、改めて1日目の最後と見比べるとしっかりと人間が出来上がっていた。こんな初心者の私でもここまでできるのかと感動する。たった3日間でも人はこんなにも成長するのかと。初めてのことでも臆さず挑戦するということ、それが一つ自分に自信も与えてくれるんだと、造形の技術だけではない感慨をもたらしてくれる3日間となった。

たった3日間で素人でもここまで作れる!
たった3日間で素人でもここまで作れる!

■「片桐裕司彫刻セミナー」で学べること

最終日の最後に、3日間のセミナーを経た受講者みなさんの作品を並べて鑑賞会が行われます。どの作品も、人物や動物、オリジナルのクリーチャーなどそれぞれがチョイスしたモデルの特徴と3日間の努力の跡が光っています!

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受講生の参加の動機は、このセミナーで学んだことを仕事や趣味に活かしたい、更に技術を高めたい、と思っての方がほとんどだと思いますが、今回参加した映画.com編集部スタッフのように、全くの素人でもひとつの作品を作り上げる達成感や喜びは格別ですし、アーティストやクリエイターにならなくても“やりたいと思うことを突き詰めてみる”という片桐さんのマインドは、その後の生き方の指針にもなるはずです。

最終日には懇親会が行われ、映画やゲームの話題を通して、普段出会うことがない職種や趣味の方々と交流でき、新しい刺激をもらえます。興味を持った方、なにか新しいことを初めてみたい方は是非、「片桐裕司彫刻セミナー」の門を叩いてみるのはいかがでしょうか?

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<エビタニ日記>
このセミナーのもう一つの魅力は、ここに集まるメンバーだと思う。それぞれこの3日間何かを得ようと様々な人々がここに集う。モデリングやデザインを仕事にしている方も多く、1日目の時点でプロそのもののような出来のものあり驚いたが、3日目の完成を見るとさらにそこからレベルアップした素晴らしい作品たちが並んでいた。しかもそれぞれが作品への愛着で個性豊かな顔立ちをしている。

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3日間制作に没頭していたこともあり、他の参加者とはほとんど会話を交わしていなかったが、最終日のセミナー後の懇親会で先生が用意してくれた鍋をつつきながら、各々と話をしてみると、皆さん作品同様個性豊かな面々だった。これから就職を目指している学生、PCのみでモデリングをしているので実際にアナログで作ってみたかったと語るCGモデラー、趣味で漫画を描いているという女性、事務職から思い立ってクリエイティブな仕事を目指す方。みんなクリエイティブを愛しているという共通点があるため、話が非常に楽しい。こんな方々に出会えたのもこのセミナーの意義であり、迷っているという方にもおすすめしたい理由の一つだ。

そしてその後……(余談です)
電車に乗っていても、映画を見ていても、ついつい人の奥行きを観察するような癖がついてしまった。


「片桐裕司彫刻セミナー」詳細はこちら(http://chokokuseminar.com/)


■撮影の許可をいただいた受講者の作品も写真と共に紹介します。

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「仕事で背景を作ることが多いので、人物を作りたく、推しオジのリアム・カニンガムをチョイス。流れやリズムということを学んだ」(ゲーム業界でモデラーとして活躍)
「仕事で背景を作ることが多いので、人物を作りたく、推しオジのリアム・カニンガムをチョイス。流れやリズムということを学んだ」(ゲーム業界でモデラーとして活躍)
「皺くちゃを作りたかった。ハリポタのドビーとハリソン・フォードの掛け合わせのクリーチャーです」(ネイリスト、メイクアップ業)
「皺くちゃを作りたかった。ハリポタのドビーとハリソン・フォードの掛け合わせのクリーチャーです」(ネイリスト、メイクアップ業)
「タイガーを作りました。平面の写真から立体にすること、自分の思い込みのようなものが解けた」(趣味でチョコレート細工を制作している)
「タイガーを作りました。平面の写真から立体にすること、自分の思い込みのようなものが解けた」(趣味でチョコレート細工を制作している)
「『パシフィック・リム』の芦田愛菜さん。躍動感あるポーズを作りたかった。先生が少し直してくださるだけで、数時間悩んだことが一気に進んだ」(CGアニメーター)
「『パシフィック・リム』の芦田愛菜さん。躍動感あるポーズを作りたかった。先生が少し直してくださるだけで、数時間悩んだことが一気に進んだ」(CGアニメーター)
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