【「ヒトラーのための虐殺会議」評論】戦場の凄惨さと絶望とは違う恐怖を突きつけてくる最悪の虐殺会議
2023年1月21日 07:00

Netflixで「西部戦線異状なし」を見て、改めてドイツの第1次、第2次世界大戦時の歴史について注目していたタイミングで「ヒトラーのための虐殺会議」を鑑賞。アドルフ・アイヒマンが記録した“実在の議事録に基づいて映画化”という情報が信じられないと思いたくなるほどの背筋が凍る映画だ。
1930年製作の名作戦争映画をリメイクした「西部戦線異状なし」は、第1次世界大戦時、戦場の最前線でドイツの若き兵士たちが命をかけて戦う様を描き、凄惨な現実と、その絶望と恐怖が伝わってきた。一方の「ヒトラーのための虐殺会議」の舞台は、第2次世界大戦時、戦場から離れた会議室だが、戦場の凄惨さと絶望とは違う恐怖を突きつけてくる。
それまでの歴史的背景や民族問題、戦争に至る経緯など様々な事情があるとはいえ、人間とはここまで非情になれるのかと戦慄が走る。ナチス政権による1100万人のユダヤ人絶滅政策がたったの90分で決定していたのだ。1942年1月20日正午、ベルリンのバンゼー湖畔に建つ大邸宅にナチス親衛隊と各事務次官の計15名と秘書1名が集められる。議題は「ユダヤ人問題の最終的解決」だ。「最終的解決」とは、ヨーロッパにいるユダヤ人を計画的に抹殺することを意味する。
そんな議題に対して、移送、強制収容、強制労働、計画的殺害などの方策が淡々と議決されていく。映画とはいえ、そんな展開を見ているとこちらの人間としての感覚さえも麻痺してくるかのようだ。ドイツ、ヨーロッパにあったユダヤ人に対する迫害、差別意識に加え、このバンゼー会議に集まったクセモノ高官15名の頭には、ヒトラーへの忠誠心、互いの腹の探り合いと自己保身しかない。まさにビジネス会議のように進行し、反論・異論が出たかと思いきや、その方法は効率が悪いとか、自分が作成に関わった法に反するので同意しかねるといったものなどで、ユダヤ人大量虐殺に対して反論する者は誰一人いないという異様な光景は、見ていて息苦しくなってくる。
そうすることが人道的にも最善の策だという、当時のナチス親衛隊、政府の最悪の感覚から、戦争の狂気は戦場だけでなく、実は会議室にあったことを目撃することになるのだ。高官の一人が、「歴史が変わる瞬間を間近で体験したと、孫に話せる」と言うが、その孫たちはいま何を思って生きているのだろうか。
(C)2021 Constantin Television GmbH, ZDF
関連ニュース






映画.com注目特集をチェック

映画「F1(R) エフワン」
【語れば語るほど、より“傑作”になっていく】上がりきったハードルを超えてきた…胸アツをこえて胸炎上
提供:ワーナー・ブラザース映画

たった1秒のシーンが爆発的に話題になった映画
【この夏、絶対に観るやつ】全世界が瞬時に“観るリスト”に入れた…魅力を徹底検証!
提供:ワーナー・ブラザース映画

でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男
【あり得ないほど素晴らしい一作】この映画は心を撃ち抜く。刺すような冷たさと、雷のような感動で。
提供:東映

186億円の自腹で製作した狂気の一作
【100年後まで語り継がれるはず】この映画体験、生涯に一度あるかないか…
提供:ハーク、松竹

なんだこの映画は!?
【異常な超高評価】観たくて観たくて仕方なかった“悪魔的超ヒット作”ついに日本上陸!
提供:ワーナー・ブラザース映画

すさまじい映画だった――
【あまりにも早すぎる超最速レビュー】全身で感じる、圧倒的熱量の体験。
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

“生涯ベスト”の絶賛!
「愛しくて涙が止まらない」…笑って泣いて前を向く、最高のエール贈る極上作【1人でも多くの人へ】
提供:KDDI

究極・至高の“昭和の角川映画”傑作選!
「野獣死すべし」「探偵物語」「人間の証明」…傑作を一挙大放出!(提供:BS10 スターチャンネル)