【「イントロダクション」評論】カメラワークに注意深く目を向けると、微妙なディテールを発見することができる

2022年6月19日 22:00


「イントロダクション」
「イントロダクション」

ホン・サンス監督の作品を何本も見ていると、彼が自分の気ままなスタイルで自由に活動していることがわかる。彼の作品では、人間関係についての重厚な考察を下敷きにした、延々と続く淡々とした会話を楽しむことができる。そして登場人物は、孤独に苦しむ映画関係者であることが多い。

理解しやすく、かなり短いが非常に完成度の高い低予算映画は日記に書き留めた思いつきのように気軽なものだが、彼の鋭いカメラワークに注意深く目を向けると、物語を際立たせる微妙なディテールを発見することができる。「イントロダクション」は、ホン監督にしては地味な作品であり、終盤の食卓で繰り広げられる言い争いがクライマックスになるのが特徴だ。

映画は、鍼灸師がオフィスで一人、それまでの人生を悔いセカンドチャンスを祈るところから始まる。彼が何を求めているのか映画の中で明示してくれることを期待してしまうが、彼は第1幕以降再び登場することはない。しかしこのシーンを削除したら、まったく別の映画になってしまう。この不思議な出来事についての映画ではなくなるのだ。おそらく、ホンが本作の「イントロダクション」というタイトルで意図しているのは、映画における導入部分の様式やその重要性を明らかにすることだろう。

鍼灸師が古くからの知人らしい年老いた俳優を治療していると、息子のヨンホが訪ねてくる。この俳優はヨンホの母の友人でもあることが後でわかる。また、ヨンホと看護婦の雑談から、この俳優と母の過去の友情、あるいは親密な関係が明らかになる。

時を経て俳優の道を選んだヨンホは、ある日母親とその俳優と酒を酌み交わしながら食事をする。彼らの会話には意図的な曖昧さが随所に見られ、その背景になにかエロティックな事情があるのだろうかと想像させる。映画のクライマックスとなるこのシーンでは、恋人との約束や夢、不倫など、彼らの気質をうかがい知ることができるが、会話はつかの間、観客は突き放され、彼らの人生はむなしい無秩序の中に散り散りになっていくばかりだ。

(DanKnighton)

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