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【「TOVE トーベ」評論】自由でありたいと願うトーベの姿を見ていると、心の底から勇気が湧いてくる

2021年10月3日 17:30

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「TOVE トーベ」
「TOVE トーベ」

第二次大戦が終結し、長く続いた大国、ソ連との敵対関係から解放されて自由な空気に溢れるフィンランドの首都、ヘルシンキ。人々はまるで堰を切ったように夜通しパーティに明け暮れている。そんな喧騒の中に「ムーミン」の作者、トーベ・ヤンソンがいた。

著名な彫刻家で厳格な父親、ヴィクトルへの反発から、トーベは挑戦的で型破りな生活 を送っている。パーティで知り合った既婚の政治家、アトス・ヴィルタネンと親密になる一方で、市長夫人で舞台演出家でもある魅惑のブルジョワマダム、ヴィヴィカ・バンドラーと激しい恋に落ちるトーベ。彼らはそれぞれ、「ムーミン」シリーズに登場するキャラクターのモデルだと言われる。例えば、ムーミントロールの親友、スナフキンはアトスがモデルで、2人だけに通じる秘密の言葉で話すトフスランとビフスランは、トーベ本人とヴィヴィカを投影したキャラクターとか。劇中には、彼女たちが密かに愛の言葉を交わすシーンがあって、「ムーミン」が描かれた背景を覗き見るような楽しさがある。

本作はまた、芸術家が迷いながらも創造のエネルギーを取り戻し、アイデンティティを獲得する姿を描いて、より深い部分へ切り込んで行く。彫刻こそが芸術の王道と決めつける父親に反抗し、童話だけでなく、風刺漫画、油絵、壁画とあらゆるジャンルに挑戦して来たトーベ。そんな彼女が、自分の他にも次々と女性をハントするヴィヴィカを独占したいという欲求に駆られた時、芸術家としての在り方と方向性をも試されることになる。そうしてトーベは、ヴィヴィカと訣別することで、何物にも束縛されない、真に自由で、強かなマルチ・アーティストへと脱皮するのである。

映画の中にも登場し、ポスターに使われている、トーベがフレアスカートの裾を靡かせてジャンプするショットは、人としても、芸術家としても自由でありたいと願う彼女の弾む気持ちのシンボル。宙を舞うトーベを見ると、時代や国籍や職業に関係なく、なぜか心の底から勇気が湧いてくるのだ。

(清藤秀人)

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