映画.comでできることを探す
作品を探す
映画館・スケジュールを探す
最新のニュースを見る
ランキングを見る
映画の知識を深める
映画レビューを見る
プレゼントに応募する
最新のアニメ情報をチェック
その他情報をチェック

フォローして最新情報を受け取ろう

検索

【国立映画アーカイブコラム】デジタル技術で甦る、フィルムの色彩

2021年7月11日 14:00

リンクをコピーしました。
「千人針」[デジタル復元版]の試作フィルム
「千人針」[デジタル復元版]の試作フィルム

映画館、DVD・BD、そしてインターネットを通じて、私たちは新作だけでなく昔の映画も手軽に楽しめるようになりました。 それは、その映画が今も「残されている」からだと考えたことはありますか? 誰かが適切な方法で残さなければ、現代の映画も10年、20年後には見られなくなるかもしれないのです。国立映画アーカイブは、「映画を残す、映画を活かす。」を信条として、日々さまざまな側面からその課題に取り組んでいます。広報担当が、職員の“生”の声を通して、国立映画アーカイブの仕事の内側をご案内します。ようこそ、めくるめく「フィルムアーカイブ」の世界へ!


国立映画アーカイブは近年、デジタル技術を用いてさらに一歩踏み出した映画の復元に取り組んできました。画面の揺れやフリッカーを安定させたり、フィルムに焼き込まれたゴミの除去(パラ消し)ができたりと、デジタル復元には、多くの制約があるアナログ復元とは異なり、さまざまな利点があります。

特に、映画完成当時のオリジナルの色彩を可能な限り再現する際に、デジタル技術は大きな役割を果たします。例えば、フィルムは色の成分によって褪色の進行具合が違ってきます。特定の色やコマの一部だけに褪色補正を施すことは、アナログ復元では難しいものの、デジタル技術を活用すれば行えるのです。

2015年度に当館でデジタル復元をした「千人針」(三枝源次郎監督、1937年)は、色彩の再現という点から見ても、デジタル復元の新たな可能性を見出す重要な作品となりました。

ロシアから“里帰り”を果たした「千人針」[デジタル復元版]
ロシアから“里帰り”を果たした「千人針」[デジタル復元版]

大日本天然色映畫社製作「千人針」のデジタル復元が実施されたのは、可燃性フィルムがロシアの国立フィルムアーカイブであるゴスフィルモフォンドで見つかったことがきっかけでした。海外に残存する日本映画の収集は、当館の重要な活動のひとつ。ロシアから日本へは可燃性フィルムの輸送ができなかったのですが、 ゴスフィルモフォンドが作成したフィルムのデジタルスキャンデータを送信してもらうことで、日本で作業に取りかかることができました。復元の元素材を自分たちの目で確認することが叶わない状態での、異例のデジタル復元でありました。

1895年に映画が生まれた時から、人々は白と黒が織りなす世界に色彩を加える工夫をしてきました。無声映画の時代には、フィルムの一コマ一コマに手で着色したり、フィルムを染料に浸して染色したり、また、白黒フィルムの銀(黒をなす黒化銀の粒子)を、鉄やウラニウムに変化させてシアンやオレンジといった色彩を表す調色など、現像後のポジフィルムに処理を加える手法が取られました。その傍らで、カラーの劇映画が一般化する1950年代までのおよそ60年、現実に近い色の再現を目的に、科学的アプローチでフィルムに色彩を記録する再現方法も着々と研究が進み、数多のカラー・プロセスが生み出されていました。

フィルムのカラー表現は、三原色から成り立っています。三原色とは、混合してあらゆる色を表現できる三つの色のこと。重ねるにつれて明るくなる=白に近づく、光の三原色である加色法のRGB(赤・緑・青)、重ねるにつれて暗くなる=黒に近づく、色の三原色である減色法のCMY(シアン・マゼンタ・イエロー)が知られており、現在流通しているカラーフィルムは減色法です。

すべての色は、三つの原色から作り出せる
すべての色は、三つの原色から作り出せる

このCMY三色を用いたカラーフィルムが普及する前の時代には、二色式カラーの方式がいくつも試されてきました。「千人針」は、数ある二色式カラーのひとつで作られています。

「千人針」の二色式カラーの方式は、撮影時に二種類の白黒ネガフィルムを使用します。まず、赤・緑・青の光の内、赤に感光しないオルソクロマチックフィルム(以下、オルソ)を赤に染色し、それをパンクロマチックフィルム(赤・緑・青の全てに感光する白黒フィルム。以下、パンクロ)と重ねて撮影します。前者には緑から青の波長のみが記録され、そのフィルムを通過した赤の波長のみが、後者に記録されます。この二本のネガフィルムを、両面に乳剤が塗布された特殊なポジフィルムに焼き付けます。次に、オルソから得た面をウラニウム(オレンジ色)に、パンクロから得た面を鉄(シアン)に調色し、最後にウラニウムの面を赤染色します。

「千人針」の二色式カラーの原理
「千人針」の二色式カラーの原理

こんなに手の込んだ方法でカラー映画が作られていたことがあったのかと驚いてしまいますね。三色式が一般化すると二色式は廃れ、この方式も結局のところ国内ではほとんど採用されることがありませんでした。遠い昔の技術ゆえに、精通した専門家ももうおりません。

復元作業に参加した映画室の主任研究員・三浦和己さんは言います。

「通常、映画の復元時には作品の製作スタッフや、経験的・技術的な知見を持った方に監修に入っていただくのですが、『千人針』ではそれができませんでした。そのため、監修者もいない中で、技術的に整合性の取れた正解はどこかという客観的な判断をする必要がありました」

そこで、IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(当時はIMAGICA)の技術協力を得て、どのような復元方法が可能かを探るために二色式の仕組みを調査・研究しました。その結果、二色式では生成不可能な色を明示するシステムの開発に成功します。三色式カラーに比べ、二色式は表現できる色の幅が限られています。デジタルではどんな色彩も自由に作り出せますが、ここではそのデジタル技術を「色表現に制限を課す」ために活用したのです。

映画製作には、映像の色・階調を調整する“グレーディング”と呼ばれる工程があります。「千人針」のデジタル復元では、グレーディング時に用いるための専用LUTを作成。LUTとは、Look Up Tableの略で、入力と出力の関係を表す対応表です。例えばWEB公開用のデータ、DCP、35ミリプリントなど異なるメディアで、プロジェクターでの投影やモニターを介して見ても、同じ色に見えるよう変換する際などに使用します。このLUTを応用し、二色式カラーでは表現不可能な色の領域の値が入力されると、モニターに映された映像の該当部分がビビッドな緑色になるように設定した専用LUTを開発しました。こうして、専用LUTが警告を発した色域を使用しないようにグレーディングが行えるようになったのです。

左側の画面で、二色式で表現不可能な色域に警告が表示されている
左側の画面で、二色式で表現不可能な色域に警告が表示されている

色の幅を制限するためにLUTを用いるという取り組みは世界的にも高い評価を受け、その成果をまとめた論文はFIAF(国際フィルムアーカイブ連盟)の機関誌「Journal of Film Preservation」に掲載されました。映画フィルムが本来生成できない色を特定した上で、グレーディング時にその領域を採用しないように制限を加える手法が、二色式にとどまらず、三色式や、単色の染調色フィルムの復元にも有効なアプローチとなりうることを示した、重要な仕事となりました。

「Journal of Film Preservation」第96号(2017年4月発行)に掲載された論文
「Journal of Film Preservation」第96号(2017年4月発行)に掲載された論文

「千人針」で開発された専用LUTのシステムは、翌年に国際交流基金の協力を得てKADOKAWAが行った「浮草」(小津安二郎監督、1959年)のデジタル復元で応用されました。「浮草」は、ドイツのアグファ社が発売したカラーフィルム(アグファカラー)を使用しています。アグファカラーは、赤の発色が特徴的なフィルム。復元では“小津の赤”と呼ばれたような、固有の色彩をいかに忠実に再現できるかがポイントとなったものの、広く普及しなかったアグファカラーでは参照できる色見本に乏しく、グレーディングの方針を定められませんでした。ところが幸運なことに、「浮草」ではアグファカラーのフィルム特性が文献で数値として残されていたのです。そのため、それを基にアグファカラーの色域(表現できる色の領域)を確認し、アグファカラーの発色の特性を確認できる専用LUTを作ることができたのです。数値上からアグファカラーの特性を踏まえた上で色調整が行われたのはこれが初めてでした。

300本以上の劇映画でタイミング(監督やカメラマンが意図した色彩や濃度に近づけるための色調調整)を担当してきた当館技術職員の鈴木美康さんは、デジタル復元されたこれらの作品を見て、こう思ったそうです。

「『千人針』は、現代の目で見ると色は鮮やかではないし、人物や草木の色は十分に表現されてはいないけれど、白黒映画しか見られなかった時代の当時の観客が、この色のついた映像を見たらすごく感動しただろうな、と思いました。今の我々の感じ方とは全く別だったはずですし、1937年当時によくここまで作り上げたなと感じました」

「『浮草』は、実は、数値を基にして当時の色でカラーチャートを置き換えたとき、びっくりしたんです。あまりにも色が無くて、白黒にちょっと色がついただけのように見えて。でも、ある程度の長さでシーンを再現してみると、人物の肌や着物の色もはっきりしていて、印象的な赤色が目に飛び込んできて、きちんとカラー作品として見られる映像になっていた。その差に驚きました。そういう意味では、科学的な根拠に基づいて作っていくのは大事なことだと感じました。感覚だけに頼ると、間違いが起きる。かといって、感覚を無視するのもよくないので、両方を大切にすることが重要ですね」

画像7
「浮草」[デジタル復元版](上下)で再現された色彩
「浮草」[デジタル復元版](上下)で再現された色彩

三浦さんは、「これまで色彩の再現においては、監修者の記憶に基づくものや、文献情報が基になっていることがほとんどでした。だから、フィルムが持つ物質的な情報や数値データを基に技術的な根拠を作って、それを復元に生かすということはこれまでそんなにやられていませんでした」と、試みの新しさを語ります。

「デジタル復元は、できることが増えたプラスの部分もあれば、どこまでもできてしまうがゆえにゴールをどこに置くかという問題が、より重要な論点となってきています。例えばデジタルリマスターの“鮮やかに蘇る”といったキャッチコピーでは、画質・音質はより良くなっているとされます。ただ、もしかするとそれはオリジナルよりも鮮明な映像になってしまっているかもしれない。私たちは、オリジナルは何かということをゴールにしたい。こうした技術・経験に基づく復元に、エンジニアリング的なアプローチで補強する試みは、次に繋がる一歩になったと感じています」

半世紀以上昔の作品をオリジナルの状態で再現するために、デジタル技術がいかに頼れる存在かを、今回のコラムを通じて少しでも知っていただければ幸いです。

小津安二郎 の関連作を観る


Amazonで関連商品を見る

関連ニュース

映画.com注目特集をチェック

関連コンテンツをチェック

シネマ映画.comで今すぐ見る

卍 リバース

卍 リバース NEW

文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。

愛のぬくもり

愛のぬくもり NEW

「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。

痴人の愛 リバース

痴人の愛 リバース NEW

奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。

母とわたしの3日間

母とわたしの3日間 NEW

休暇をもらって天国から降りてきた亡き母と、母が残したレシピで定食屋を営む娘が過ごす3日間を描いたファンタジーストーリー。 亡くなって3年目になる日、ポクチャは天国から3日間の休暇を与えられ、ルール案内を担当する新人ガイドととも幽霊として地上に降りてくる。娘のチンジュはアメリカの大学で教授を務めており、そのことを母として誇らしく思っていたポクチャだったが、チンジュは教授を辞めて故郷の家に戻り、定食屋を営んでいた。それを知った母の戸惑いには気づかず、チンジュは親友のミジンとともに、ポクチャの残したレシピを再現していく。その懐かしい味とともに、チンジュの中で次第に母との思い出がよみがえっていく。 母ポクチャ役は韓国で「国民の母」とも呼ばれ親しまれるベテラン俳優のキム・ヘスク、娘チンジュ役はドラマ「海街チャチャチャ」「オーマイビーナス」などで人気のシン・ミナ。「7番房の奇跡」「ハナ 奇跡の46日間」などで知られるユ・ヨンアによる脚本で、「僕の特別な兄弟」のユク・サンヒョ監督がメガホンをとった。劇中に登場する家庭料理の数々も見どころ。

美と殺戮のすべて

美と殺戮のすべて NEW

「シチズンフォー スノーデンの暴露」で第87回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したローラ・ポイトラス監督が、写真家ナン・ゴールディンの人生とキャリア、そして彼女が医療用麻薬オピオイド蔓延の責任を追及する活動を追ったドキュメンタリー。 ゴールディンは姉の死をきっかけに10代から写真家の道を歩み始め、自分自身や家族、友人のポートレートや、薬物、セクシュアリティなど時代性を反映した作品を生み出してきた。手術時にオピオイド系の鎮痛剤オキシコンチンを投与されて中毒となり生死の境をさまよった彼女は、2017年に支援団体P.A.I.N.を創設。オキシコンチンを販売する製薬会社パーデュー・ファーマ社とそのオーナーである大富豪サックラー家、そしてサックラー家から多額の寄付を受けた芸術界の責任を追及するが……。 2022年・第79回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。第95回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネート。

ファイヤー・ウィズ・ファイヤー 炎の誓い

ファイヤー・ウィズ・ファイヤー 炎の誓い NEW

「トランスフォーマー」シリーズで人気のジョシュ・デュアメルが主演するサスペンスアクション。消防士のジェレミーは、冷酷非情なギャングのボス、ヘイガンがかかわる殺人事件現場を目撃してしまい、命を狙われる。警察に保護されたジェレミーは、証人保護プログラムにより名前と住む場所を変えて身を隠すが、それでもヘイガンは執ようにジェレミーを追ってくる。やがて恋人や友人にまで危険が及んだことで、ジェレミーは逃げ隠れるのをやめ、大切な人たちを守るため一転して追う者へと変ぼうしていく。ジェレミーを守る刑事セラ役でブルース・ウィリスが共演。

おすすめ情報

映画ニュースアクセスランキング

映画ニュースアクセスランキングをもっと見る

シネマ映画.comで今すぐ見る

他配信中作品を見る