混迷を極めた「WeWork」の内部事情とは? ドキュメンタリー監督が明かす、繁栄と没落の経緯

2021年3月18日 18:00


「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」に出品された注目のドキュメンタリー
「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」に出品された注目のドキュメンタリー

テクノロジーや映画、音楽の祭典「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」(オンライン開催:3月16日~20日)に、注目のドキュメンタリーが出品された。米スタートアップ企業「WeWork」を題材にした「WeWork:Or the Making and Breaking of a $47 Billion Unicorn(原題)」だ。このほど、監督を務めたジェッド・ロススタインが単独インタビューに応じてくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

シェアオフィス事業で急成長を遂げたスタートアップ「WeWork」は、企業統治の欠陥から株式新規公開(IPO)計画が頓挫。社債の急落により、投資を行ったソフトバンクが巨額損失を計上した。本作では「WeWork」の元CEOアダム・ニューマンのカリスマ性と人柄を明かし、実際に働いていた社員のインタビューを通じて、スピリチュアルに頼った経営方針、ビジネスモデルの脆弱さを浮き彫りにする。

劇中では、ソフトバンク・孫正義氏との交渉の様子も活写。時代の寵児として注目されたアダムと、彼が率いた会社の内部事情が克明に描かれていく。ロススタイン監督は、どのような経緯で「WeWork」を取り上げることにしたのだろうか。

アダム・ニューマン
アダム・ニューマン

ロススタイン監督「ずっと金融関係の話に興味を持っていました。金融関係の話で一般の観客に興味を持たせることができれば、『資本主義の世界に住む我々にとって、それらがどう相互作用するのか』という点の理解に役立つと思ったんです。そんなビジネスの中心には、カリスマ的なリーダー、アダム・ニューマンがいました。彼は劇的な成功を収めたものの、急に失墜したため、説得力のある物語となる強い要素を持ち合わせていたんだと思います。会社の内部事情の蓋を開け、アダムと働き、会社の低迷を共に歩んだ人々を見ることで、人々に“ひとつの時代の終焉”を理解させることができると考えました」

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「WeWork」設立以前、膝当てパッド付きベビー服を販売する「クローラーズ」を立ち上げたニューマン。同社の経営は成功とはいえなかった。そんな彼は、2008年「WeWork」の前身となった「Greendesk」を創業。いかに資金繰りをし、マンハッタンの中心地にオフィスをかまえたのか。

「この件は映画でも描いていませんし、100%の確信はないんですが……アダム、そして共に『Greendesk』を立ち上げたミゲル(・マッケルビー)が住んでいた建物についてのことです。実は、この建物の所有者は、パートナーとして『Greendesk』に関わっていました。そこが、ブルックリンで最初の『Greendesk』。彼らはその建物の全てをすぐに貸し出したことで、大きな成功を収めました。ただ、アダムとミゲルはマンハッタンで事業を拡大しようと思ったものの、建物の所有者にはそのつもりはなかったようです」

アダムとミゲルの成功――そこには、08年のリーマンショックの影響が大きく関わっているようだ。

「経済危機によって仕事を失いながらも、新たに会社を立ち上げた若い事業者には、新たに働くスペースが必要だったんです。アダムとミゲルは『共有オフィススペースを、どのように見せるか』を再考しました。壁を取り払い、働きやすくしたという点は、良い仕事ぶりでした」

「僕自身はニューヨーカーで、長い間、独立系映画のフィルムメーカーとして働いていました。自分のオフィスで働くこともあれば、オフィスを借りて働くこともありました。幸運にも、今では良いオフィスで働いているが……かつては、暗くて、狭くて、何もかもが機能していないと思えるオフィスも存在していました。長期の契約を結ばなければいけないパターンもありました。それは、とても面倒くさいこと。なぜなら、自分自身のビジネスが上手くいくかどうかわからないんですから。だからこそ、アダムとミゲルは、そういった人々の問題を予見し、ある種の解決策を提供したわけです。他にも共有オフィススペースを運営している会社がありましたが、2人はそれ以上に上手くやり、成長させることができたんです。支持者もひきつけて急成長しようとしたんですが……結局は“速すぎた”んだと思います」。

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10年に創業した「WeWork」。同社の若い社員は、アダムのビジョンを簡単に信じてしまう“格好の標的”だったように見える。ロススタイン監督は、どう考えているのだろう。

「『WeWork』の若い社員は、会社に加わることの“意味を見つけたい”と感じていたように思えます。ほとんどの人々は、若い頃にさまざまことを試したいと思っています。だからこそ、彼らは“格好の標的”だったかもしれません。しかし、アダムは多くの人々が欲しいと願う旅路(ある段階から、次の段階へ行く道のり)を提供していました。アダムが狂ったように人々を働かせていた点はクレイジーですが、アメリカの新興企業の多くは、どれも似たような感じです。実際、ニューヨークの銀行員や弁護士は、長時間にわたり、非人道的な働き方をしている。そういったケースを見ていると、経営者が『働け、働け』と指示しても、その後に『より良い世界にするために乾杯だ』と社員に言えば、様々な状況が交錯してしまう。そんな経営者のもとで働き始めることに魅力を感じる――僕らがこの事を理解するのは、さほど難しくないはずです」

多くのベンチャー企業は、将来の技術に投資する。しかし「WeWork」は、共有オフィスの専門会社だ。資金を持つ会社が簡単に真似できるという脆弱な部分があるのではないだろうか。

「まずこう考えます。『他の会社がスペースを借りたり、デスクを借りることを妨げているものは何か? アダムとミゲルの何が特別で、なぜ彼らに投資が行われたのか?』とね。アダムとミゲルは、きっとこう言うと思います。『僕らは単にデスクを借りただけじゃない』と。彼らは、孫正義を納得させるほどの高度なテクノロジーシステムを整えていました。(共有オフィスの分野を)大規模な市場展開で支配していましたし、世界を掌握しようとしていたビジョンファンド(孫氏が設立した巨大投資ファンド)内にあった“孫正義の企業ポートフォリオの一部”でもありました」

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やがて、ロススタイン監督は「ただ、孫正義は、テクノロジーがビジネスの中核となる範囲を過大評価していたと思います」と説明した。

「高成長のハイテク企業における主要の経済的機能は、追加ユニットごとの生産コストが非常に低いんです。例えば、あるソフトウェアを作成する場合。それを何十億もの人口に合わせて販売できれば、追加コピーを作成することに関しては、それほど費用はかかりません。ですが、共有オフィスとなると、机を借りたり、スペースを借りたり、スタッフを配置する必要が生じます。全く同じ指数関数的な方法で成長し、ハイテク企業として評価されることを想像するのは難しかったんです」と語る。その一方で、新型コロナウイルスを巡る状況が緩和すれば、アダム・ニューマンが退いた現在の「WeWork」は「成功すると思う」と答えた。

おそらく孫氏は「ビジョンファンド」という大きな観点で物事を見ていたはずだ。しかし「WeWork」のサポートは、投資家たちの悪い評判を生んだ。それらの状況全てを管理するというのは、とても困難だったはずだ。

「それが難しいということは同意しますし、孫正義の論理とは何なのかということを、僕は知ることができません。あなたが仰るように、孫正義には『WeWork』よりも大きな懸念があると思います。それは『ビジョンファンド』と大きなプレイヤーとなりえる投資家の存在です。少々、この映画の範疇を超えるかもしれませんが……孫正義について興味深い点は、彼がこれまでビジネスにおいて“良い賭け”をしてきたということ。投資先のアリババ・グループ・ホールディングの株価が高騰して巨額の利益を得る一方、投資に失敗して金を失ったこともあった。非常に興味深くて、大胆な考え方でもあります。だからこそ、孫正義が『WeWork』にこだわった理由、今後の『WeWork』に何を期待しているのかを聞いてみたいですね」

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