米国版2ちゃんねるで予期せぬ拡散 カエルのミームの真実に迫るドキュメンタリー「フィールズ・グッド・マン」監督に聞く

2021年3月12日 16:00


アーサー・ジョーンズ監督
アーサー・ジョーンズ監督

アメリカのアンダーグラウンドコミック界のキャラクター「カエルのペペ」が、ネットミームとして改変され人気を博し、2016年アメリカ大統領選時には人種差別的なイメージとともに拡散されるなど、作者の意図とは異なる現象を巻き起こした。原作者マット・フューリーが語る「ペペ」の真実と現在のアメリカ社会を、アニメーションを織り交ぜて描いたドキュメンタリー「フィールズ・グッド・マン」のアーサー・ジョーンズ監督が、作品について語った。

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――この映画の成り立ちと、物語に至った経緯について聞かせてください。

僕はマット・フューリーとは友人で、彼の作品のファンでもある。2017年初め、ペペが陥ったジレンマに対処するために、僕たちはいくつかのクリエイティブなコラボレーションを、マットが芸術的だと感じる方法で試した。けれど僕たちのコラボレーションは障害物にぶつかり続けた。なぜなら、そのコラボレーションを提案した相手が、皆ペペを取り巻く政治的側面に魅力を感じていたからだ。彼らはアーティストとしてのマットではなく、キャラクターが着せられた汚名にばかり注目していた。それが様々な理由でマットを苛立たせたんだと思う。彼は、ニュースで語られるぺぺについての大きな文化的言説に取り囲まれるのが好きではないんだ。

ある時、僕はこの状況についてのドキュメンタリー映画に参加するようマットに勧めた。彼が自分の物語を完全に伝えるにはそれが一番だと思ったからだ。僕はこの映画のためにとても長い企画書を作り、マットとパートナーのアイヤナに送った。彼らは好反応だった。僕は腰を据えて、このプロジェクトがどれだけ時間のかかるものであるかを説明し、彼らの物語を語ることへの僕の熱意を信じてもらった。この映画を良いものにする唯一の方法は、映画自体が誠実であることだと僕ら全員が一致していた。それでマットたちは、僕が作りたかった映画を作ることを許可してくれた。

2017年後半から撮影を開始し、1年かけてマットとの信頼関係を築いていった。その間、僕は正に没入型の研究プロジェクトとしてこの映画に取り掛かった。僕は、ソーシャルメディア時代におけるインターネットとアメリカ人の意識についての物語を語るために、4chanのアーカイブを数週間かけて徹底的に調べたんだ。

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――この映画は、アニメーションを用いたドキュメンタリー映画ですが、このスタイルに決めた過程を教えてください。またこのアニメーションが物語にどんな影響を及ぼしていると思いますか?

僕はアニメーションの仕事に携わっていて、マットとは、いつ一緒にやろうかという話をよくしていた。僕はジャーナリストたちとマルチメディアの制作や長編ドキュメンタリーのためのモーション・グラフィックスの制作をかなりの量やっていた。そしてそれらの経験を通して次第に自分でドキュメンタリーをつくるという発想に至ったんだ。

マットは2000年代半ば頃に「ボーイズ・クラブ」を描いていたけど、途中でやめてしまった。だからぺぺを使う多くのネットユーザーたちはぺぺの出どころを知らない。一方で「スポンジ・ボブ」はしょっちゅう攻撃的な方法でミームにされているけど、スポンジ・ボブが人気のアニメ番組だということは皆が知っていて、著作権で守られている。だからデタラメなミームよりも本物の方が文化的に重要視されている。

この映画を通して、僕たちはペペに相応しい文脈を与え、ペペの正統版を作ることに本当に力を注いだ。マットの精神に忠実でありながら、物語に想像力とユーモアと美しさを与えた。僕たちの目標は、視覚的にユニークな映画を作ることだったけど、JPEG画像についてのドキュメンタリーは、必ずしも人を魅了するものではない。だからこの映画にはインターネットの状況とマットの想像力豊かなアニメーションの世界を両立させることが必須だと制作者皆が思ったんだ。

――この映画はポップで遊び心のあるトーンで、アメリカ文化のダークな面を映し出しています。そこには具体的な意図があったのでしょうか?

ぺぺにはなんとも言えない魅力がある。ロバート・クラムやジム・ウードリングの作品のように、マットの絵には独自の引力がある。ペペを見ると、何かを感じる。彼は面白くて、気持ち悪くて、ちょっと不気味だ。彼の魅力は理解するのが難しいので、この奇妙で解読が難しいカエルのキャラクターを使って、ネット上に出回っているかなり下品なアイデアやジョークの意味をわかりにくくすることもできる。『フィールズ・グッド・マン』は、インターネットの荒々しい不合理さを蘇らせる作品だ。そしてネット上にあふれている不敬なユーモアを映画の素材の一部にする必要があった。

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――映画の中では、カエルの絵、ミームの歴史、過激派やオルタナ右翼の台頭という三つの現象を映しています。現代社会の縮図としてぺぺについてどう思われますか?

プロデューサーの一人であり、この映画の編集主任であるアーロン・ウィッケンデンは、「緑色の細い線(the thin green line)」という、僕ら全員にとても役に立つ言葉を考え出した。当初、ぺぺにまつわる話は漠然としていて、語るには大きすぎるように思えた。それは様々なことを内包していて何でも話すことができる物語だったからだ。ソーシャルメディアが引き起こしている文化的な悪について話すこともできるし、このお馬鹿なカエルのイメージについて話すこともできる。「緑色の細い線」は、この物語をナビゲートするのに役立った。僕たちは映画の物語の中で色をつけることを試みたんだ。この映画は、アートがもたらす作用についての話だけど、文化が社会の中でどのように働くかに焦点を当てた、より大きな物語でもあるんだ。

――この映画が文化的な話題になる中で、ぺぺに何を期待していますか? また、観客には映画から何を持ち帰ってほしいですか?

ぺぺに期待していることは、まずこの物語は彼の暗黒時代にあるということ、そしてぺぺが登場人物として完全に贖罪の第三幕を自分のために演じるということだ。映画で描いたように、香港の民主化デモでは若者たちが権力への抵抗と民主主義の象徴としてぺぺを選んだ。最終的に人々は、より大きな文化的、政治的影響によって、ぺぺの物語を見つめ、考えることになるだろうね。

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