監視カメラの映像だけを用いた劇映画 中国の現代美術家の初監督作「とんぼの眼」
2017年11月27日 18:00

[映画.com ニュース] 第18回東京フィルメックスコンペティション部門で、中国の現代美術家シュー・ビン氏による映画「とんぼの眼」(英題:Dragonfly Eyes/原題:蜻蛉之眼)が上映された。カメラマンも俳優もおらず、web上にアップロードされた1万台以上の監視カメラが映した14時間超の素材から約380の映像を抜粋し、オリジナルの脚本を組み合わせるという独創的な手法で作られた劇映画だ。初めて映画という媒体を用い「監視カメラの映像を映画館で上映することによって風刺的な意味合いを持たせたかった」と今作の制作意図を語るシュー氏に話を聞いた。
尼僧としての修行生活をやめ、俗世間に戻った若い女性チンティンと、一方的に彼女への思いを募らせる青年クーファン。チンティンが美容整形を受けたと知ったクーファンは、人気ネットアイドルがチンティンなのではないかと疑い始める。ジャ・ジャンクー監督の作品を手掛けたマチュー・ラクロが編集、半野喜弘が音楽を担当した。
「一つも自分たちで作った映像はなく、リアリズムを超えたリアリズムの映画です。中国の普通の人々が出くわす現実がこの映画の中にあります。そこには、まったく演技や演出というものはありません。私は、その現実の映像と虚構の世界を描いた脚本を併せ、そこに存在するものを作品に仕立てたのです。登場人物の男女ふたりは、様々な人間から出来ているとも言えます」
「これまで私が発表した美術作品と内在するものは同じです。ストーリー性を持たせた長編作品ですが、それは、よりアートとしての力を強めるためです。何をもって現代美術と言うのか長らく議論されていますが、その答えは出ていません。今、世界は複雑化しており、様々なものが非常に速いスピードで変化しています。そういう中で、宗教や哲学、芸術がどのように変化し、その線引きはどのようになるのか見えないのです。私は、映画というメディアは、表現力の面で、他の芸術より力強い部分があると思い、この作品を作りました。現在、中国国内での公開は決まっていませんが、電影局がこのような作品を映画として見るのか、芸術作品として見るのか、どのような判断を下すのかわかりません」
「普通の映画に比べると、資金的にはとても楽でした。600万人民元ほどです。カメラマンもいりませんし、高いギャラを支払うべき俳優も必要ないのです。脚本は詩人である妻が執筆しました。適切な映像が見つからない場合に、脚本を変えていく苦労がありました。また、質の高い作品に仕上げるため、編集や音は、一流のスタッフに依頼しました。今回、初めて映画を作ってみて、映画監督とは大変な仕事だと痛感しました。映画は、必ずマーケットを考えなければいけない。我々美術界の人間は、それとは逆に、一人ひとりが独立して創作活動ができます。また、映画監督は現代文明に対して、どのような判断を下していくかをしっかり持っていなければいけませんし、様々なことに関する知識の有無が、作品を通してすぐに見えてしまいます。しかし、美術はそうではなく、自分の人間としての足りなさを補ったり、隠すことができます。その違いが大きいと思いました」
「これまで、ロカルノ、トロント、ニューヨークで上映され、中国の監視カメラが、人々に対するコントロールができていないことを強調していると言われたことがありました。しかしそれは、西洋の政治的な局限性のある考え方だと思います。監視カメラ=政府のコントロールというお決まりのパターンにしがみついていると、新しいものを見つけられなくなるのです。変化していく社会の中で、監視カメラと人々の生活がどのように結びつき、人の考えや行動様式を変えていくか。そこで新たな視点を持って、映像を見るべきです。固定した観念に縛りつけられてはならないのです。ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いたように、監視カメラに問題があることは既に誰もが知っているのです。重要なのは、この作品でも描いたように、無意識の中で監視カメラによって作られていく世界があるということなのです」
「美術家の仕事は、美術館に100年収蔵できるような作品を作り、鑑賞者は、その作品の前に立って眺めればよいものです。しかし、映画には様々な物語の展開があり、ある部分で観客が重要なメッセージを見逃したら、物語がわからなくなることもあり、見る人によって作品が変わっていきます。今回、映画製作で学ぶことが数多くあり、映像のモバイル時代である現代で、映画を使うことはとても良いことだと感じました。私が発表する作品の形式は、どんなメディアであろうと構わないのです。自分が今、何を言うべき時に何が必要かということで決めていきます」
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