永作博美「芝居をするのが怖かった」“沈黙”のなかで挑んだ難役
2017年9月30日 12:00
[映画.com ニュース] 連続殺人事件の容疑者となった女は、法廷で口を閉ざした――。直木賞作家・佐々木譲氏のミステリー小説を、永作博美の主演で映像化した「連続ドラマW 沈黙法廷」が放送中だ。主人公・山本美紀は、老人の連続不審死事件に関わった疑惑の人物として、警察やマスコミ、そして世間の注目を集めていくが、何も語らず、沈黙を貫こうとする。そんな謎多き女に扮した永作は、「難役だった」と撮影を振り返る。「息をすること、言葉を発することすら怖かった」という繊細な役に挑んだ実力派女優が、役と向き合い、模索するなかでたどり着いた、“沈黙する女”の真実とは。(取材・文/編集部、写真/堀弥生)
東京都北区・赤羽で、ひとり暮らしの老人の絞殺体が発見され、家事代行業の女・山本美紀が捜査線上に浮上する。複数の不審死に関与した疑いのある美紀に対して、マスコミは連続殺人犯として過熱報道を繰り返す。やがて法廷で真実が暴かれようとしたとき、突然、美紀は黙秘してしまう。
インタビュー当日、永作はクライマックスの法廷シーンの撮影を翌日に控えていた。本作との出合い、そして主人公・美紀の第一印象を問うと「とにかくセリフが少ない役。セリフが少ないということは、作業的には嬉しいことではあるのですが、人物像が見えにくい。美紀の息遣いすら感じられなかった。『どんな声をしているのか』ということすら、見えてこなかった。だから、(演じる際に)どう話そうかと考えました」と吐露。悩んだ末、原作小説に助けを求めたが、そこにも答えはなかった。原作も美紀の真意を明かさぬまま、物語が進行するため「台本以上に(美紀の)意思が感じられず、もっとわからなくなりました。もっと“透明な人”になってしまった」。
だが、そういった「曖昧さ」こそが、本作の醍醐味でもある。美紀は連続殺人を犯した悪女なのか、慎ましく生きる淑女なのか。主人公の“正体”がわからないからこそ、「ご覧になる方は、『美紀はどういう人なのか』という部分を楽しみにしているので、それを台無しにしてはいけないと思いました」とプレッシャーを明かす。「例えば、目線が動くだけでも、そこに意味が出てきてしまう。特に後半に出てくる、取り調べや弁護士との接見シーンは、小さな間や動きが重要なので、声を発するのも、目線を動かすのも緊張しました。芝居をするのが怖かったです」。
その恐怖は、撮影が進み「美紀の心が見えてくる」につれ、消えていったという。「徐々に喋るようになり、表情も解放されていきます。前半は表面的な部分だけが描かれていましたが、中盤から内面的な部分が出てきます。でもそれは、セリフや言葉で説明しているのではなく、あくまで沈黙のなかでの説明。それでも、表情の変化など、沈黙のなかから見えてくるものがあると思います。そして、ようやく最後の法廷で思いの丈を話す、“本当の美紀”へとつながっていきます」。
残る撮影は、クライマックスのシーンのみ。永作は、既に美紀の“実像”にたどり着いていた。「今は、全てがはっきりと見えています。だから嬉しいです。残る裁判のシーンで、やっと本当の美紀を皆さんに見せられる、伝えられる」と清々しい笑みを浮かべる。「最初は、『大丈夫なのかな』という心配の方が強かった。でも、今ならきちんと理解できる。“沈黙している美紀”に自信がついたというか」と明かし、「これほどセリフの少ない役で、メインに立たせていただくことはなかなかないので、本当に珍しい作品でした」と噛み締めていた。
「連続ドラマW 沈黙法廷」は、WOWOWで毎週日曜午後10時から放送中。
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