伝説のドキュメンタリーが限定公開 ソロデビューから40年、矢野顕子に聞く
2017年1月5日 19:30

[映画.com ニュース] 歌手・矢野顕子のドキュメンタリー映画「SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女。」デジタルリマスター版が、1月6日から2週間限定公開される。矢野のピアノ弾き語りシリーズの第1弾として92年に発売されたカバーアルバム「SUPER FOLK SONG」の制作現場に、故坂西伊作監督が完全密着したもの。一発録りで敢行された編集なしのレコーディング風景が、臨場感あふれる映像で繰り広げられる。映画の公開を前に、矢野に話を聞いた。
映画は1992年の公開時には2万人を動員し、レイトショー上映作品としてヒットを記録した伝説的なドキュメンタリー。今回のデジタルリマスター版は、矢野のソロデビュー40周年のアニバーサリー・イヤーを記念し製作された。“天才”矢野の妥協を許さない音への向き合い方、そして時折見せる満足げな笑顔、レコーディングスタッフたちの真剣な眼差しが、16ミリフィルムで録られたモノクロームの映像から熱を持って伝わってくる。
矢野は「レコーディングの妨げにならないこと」を条件に撮影を許可。坂西監督らは矢野にフィルム交換の気配を感じさせることのないよう、複数のカメラで撮影に臨み、その時間は90時間を超えたという。
本作完成当時は「自分が当事者なので、映像として見る事が難しかった」そうだが、四半世紀が経った現在、デジタルリマスター版を見ての感想は「より客観的に見られるようになりました。『ああ、あんなにがんばっちゃって(笑)』って。『もうそろそろやめてもいいんじゃない?』と言ってあげたくなるような気持ちにもなりましたね」
(C)映画「SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女。」2017デジタル・リマスター版当時のアナログ機材を使っての録音風景も、デジタル時代の今となっては興味深いアーカイブだ。「利便性ということを考えれば、今はお金さえあれば世界中どこにいても同じような音が手に入りますし、録音も特別な技術がなくてもできます。でも昔は、音をひとつ録るにも、ピアノの余韻までテープに入っているので、その余韻を切って繋げたりしていたんです。そういうことが、今はクリックひとつでできますが、当時はそれを人間の耳で聞いて、境目のないようなものにする特別な技術が必要でした。職人の技能が問われた時代だったと思います」
ソロデビュー40周年を迎え、11月にはベストアルバムも発売された。その世界観、音楽と言葉の豊かさに圧倒される。長年にわたって、第一線を走り続けるアーティストの創作に、なにより影響を与えるものは「人との交流」だという。「人と会話をし、そしてその人を知ること。そこから得られるものは、コンピューター上で得た知識とは全く違う。何よりも生き物を相手にするということは、こちらも気勢を張らなければならない。頭も心も使うから、その交換ですね。高度な行為だと思います。それが、自分自身に与える影響はとても大きいですし、そのこと自体がとても好きなんです」。
1990年代からニューヨークを拠点に生活している。現地では、友人や知人に薦められた作品をよく見に行くそうで、お気に入りの劇場としてSOHOにあるアンジェリカフィルムセンターを挙げる。「上映中に地下鉄の音が聞こえるんです。それが結構好きですね。そんな生活に根ざした映画館が好きなんです」。そして、本ドキュメンタリー再上映にあたり「映画の面白さって、隣に全く知らない人がいて同じものを見て感じる。その経験は他にないことですよね。この作品も昔よりも鮮明に、音も良く聞こえるようになっているので、よりその場にいる気持ちになれるのではないでしょうか」とほほえんだ。
「SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女。」デジタルリマスター版は、1月6日から東京・バルト9ほかで2週間限定公開。
執筆者紹介
松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
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