「自分が感じるものに耳を傾けて」伝説のカルト作「薔薇の葬列」松本俊夫監督からのメッセージ
2014年3月11日 09:30
[映画.com ニュース] これまでの日本映画史に前例のない映像表現で話題を集め、今なおカルト作として語り継がれている松本俊夫監督のデビュー作「薔薇の葬列」(69)と鶴屋南北の狂言を基にした時代劇「修羅」(71)が、初ブルーレイ化&再DVD化される。戦後の高度成長期の文化を背景に、松本監督の卓越した映像感覚はどのように培われたのだろうか。松本監督に話を聞いた。
学生運動の嵐吹き荒れた1969年、本作で主役に抜てきされた当時16歳のピーター(池畑慎之介☆)演じるエディの姿がスキャンダラスに受け止められた。「僕としては表現したいもののモチベーションがその時代の中にどう根ざしているか、それと自分の芸術に対しての関心のあり方がどう絡んでいくかということに興味がありました」と語る。そして、時代に切り込むためには、当時ありがちな政治的な身振りで主張することは安直だと考えたそうだ。現実と虚構の入り混じった表現や、後にスタンリー・キューブリックに影響を与えたといわれる早回しシーンなど、これまでにない斬新な映像手法を取り入れている。
ゲイボーイを主役に据えた理由を「彼らを単に風俗的に描いたというだけでなく、彼らが“男”と“女”とされるものの境界に生きているということが重要でした」と語るように、とりわけ「境界」が監督にとって重要なテーマだった。「ものごとを白と黒、上と下というような位置関係を常識的に固めていくことに違和感を覚えていました。境界線の曖昧さ、ある種のカオスの世界というものが一つの時代の様相を作っているのではないかと思ったわけです。僕には通俗化された、さまざまなものの見方を一つ一つ打ち破っていこうという野心がありました」と述懐する。
1960年代後半から70年代の日本は「複雑なものが絡み合い、混沌とした大きな時代の地殻変動があちこちで亀裂を生み、かつて経験したことのない状態」だったそうだ。松本監督の作品を含め、頻繁にこの時代の作品が回顧されることについて「時代の特性が繰り返されるということはあると思いますし、例えば夢野久作などは時代によってたびたび再評価される。そういう繰り返しのなかに違いが生じ、新しいものの見方が生まれてくる。そこにその理由があるのではないかと思っています」と分析。そして、「それはつまり古い考えが否定されて新しいものに取って代わられるということではなく、両方が刺激しあって別の見方が出現するということです。僕はその共振現象に期待感を持っています」と説明する。
「薔薇の葬列」「修羅」発表から半世紀近く経った2014年、本作を初めてみる観客も多いことだろう。映画を鑑賞するにあたって予備知識は必要ではないという。「解説を受けてその教養を背景に見るのはつまらないので、原典になるものから自由になってもらいたいと思います。作品の背景を知らなければ、作品が分からないということはないのです。自分が感じるものに耳を傾けて欲しいし、作品を見て心に残ることがあるとすれば、それは今の時代にそれを見て感動するということで、作品が製作された時代に見て感動するというのとはまた違います。それは、それぞれの時代が互いに干渉して引き寄せあっているということではないかと僕は思いますし、そういう関係から斬新な驚くべき出会いを見つけ出して欲しいです」と新たな観客に向けてメッセージを寄せてくれた。
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