仏前衛監督による、映画と革命を生きた足立正生のドキュメンタリー
2012年11月30日 18:00
[映画.com ニュース] 1960年代に故若松孝二監督とのタッグで前衛的な作品を世に送り出し、その後革命に身を投じた映画作家・足立正生の横顔を、フランス人のフィリップ・グランドリュー監督が映したドキュメンタリー「美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう 足立正生」が、12月1日公開する。共に芸術家として生きるふたりが映画哲学を語った。
足立は、性と革命を主題としたピンク映画の脚本を若松プロから多数送りだし、66年に商業監督デビュー。71年に若松とともにパレスチナに渡り「赤軍-PFLP・世界戦争宣言」を発表した。その後、日本赤軍として国際指名手配されレバノンで逮捕勾留後、日本へ強制送還された。2007年に赤軍メンバーの岡本公三をモデルにした「幽閉者 テロリスト」を35年ぶりに発表。今回のドキュメンタリーのタイトルは、「幽閉者 テロリスト」の主人公が軍事訓練で見た美しい風景について語ったセリフから取られた。
ヨーロッパ各地で特集上映が組まれるなど異色の前衛監督として知られるグランドリュー監督は、数年前に初めて足立の作品に触れ、ただちに魅了されたという。「60年代の作品にはとにかく美しく形式的な力があると同時に、映画そのものの将来に向かって展望を開いています。ヨーロッパの映画作家を生き返らせる力を持った作品だと感じ、さらに足立さんのことを知りたいと思うようになったのです」と語る。
本作は、足立が家族で過ごす日常の一コマからスタート。足立の半生や映画に対する思いが、グランドリュー監督のナレーションを通し、実験的で美しい映像でつづられる。
足立はグランドリュー監督のこれまでの作品を「今もう一回映画とは何ができるのか、どういうものとして見たらいいのかという問題提起を、方法論や映画作品として示している」と評し、「フィリップは私なんかよりシンプルに生きてきて、『映画とか革命とか関係ない、そんなことは全部同じだ』と言っている。この人はさらにその一歩先を行く“映画の旅人”。どこに行くか、何をするかわからないけれど、旅はできるという確信犯をやっているんです」と映画に対するスタンスを分析する。
グランドリュー監督が特に気に入っているシーンは、足立が映画哲学は「観念と感性」であると語る場面だ。「お互いにその点、話し合ったことはないけれどわかっていたと思います。知性は分割し、断片化し、それを集めて論理的な構築を行います。しかし、知性とは別の世界がある。その世界では、時間は純粋な流れの感覚であって分割することができないのです。それが直感的な知覚です。ですから、映画が力を持つのはそのような観念の世界を、感性で感覚で通り抜ける時なのです」と持論を述べると、足立は大きくうなずいていた。
今回、被写体に徹した感想を足立に問うと「存在そのものを撮るけれど、その存在の完成度の中で、自分の感性で表現できたものだけを信じるという、古くからある映画の基本的なロジックが最も重要な点で、それだけで作りぬくぞというメッセージが彼から届いたんです。だから、(被写体になるのは)恥ずかしいけれどそれはしょうがない。彼も私も映画というものを通してもっと先に行くぞ、我々は映画の旅人であるということを、私にメッセージとして送っているから、なかなかやるじゃないのという感じですね」と懐述する。
足立自身の新作については「何本か企画があっても、“足立が撮る”とわかったらさっと逃げられるといった現実に直面している」と冗談交じりに明かしながらも「お金がかからない作り方をするなど、いろんな試みを考えて、必ず作ろうと思っています」と力強く語った。
「美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう 足立正生」は渋谷アップリンクで12月1日公開。
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