「蛇の道の始まり」ハンガー・ゲーム0 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
蛇の道の始まり
全米ではいずれも大ヒット。が、日本では『バトル・ロワイヤル』のパクりと言われ、結局人気の出ぬまま…。
個人的には結構好きだった『ハンガー・ゲーム』シリーズ。
8年ぶりとなる最新作は、プリクエル。
しかもあのスノー大統領の若き日を描くのだから驚き…!
後にパネムの独裁者となるコリオレーナス・スノー。愛称は“コリオ”。
名家の生まれだが、今は貧困地区並みに没落。
家や家族の為に、アカデミーの成績最優秀者に贈られる賞金を欲していたのだが…。
第10回ハンガー・ゲームの新たな試みとして、成績優秀上位者が、各地区のプレイヤーの“教育係”に任命される事に。優勝者に賞金が贈られる。
が、コリオが担当するのは、最も弱いとされる“第12地区”。歌う事だけが取り柄の問題児の少女だった…。
コリオは元プレイヤーで、そこから如何にしてパネムの大統領にまで上り詰めたか?…という設定かと思ったが、さすがにそうではなく。没落しても名家の生まれ。
貧困でどん底の境遇から這い上がろうとする様は、前シリーズを彷彿。
前シリーズではウディ・ハレルソンがそのポジションだった“教育係”。今回はプレイヤー視点ではなく、主催側視点なのも新風。
スノー大統領が若い頃、こんなにイケメンだった事が驚き…!(ドナルド・サザーランドも渋くてダンディーだが)
ブロンドヘアで、初登場シーンから均整の取れた肉体美を披露。
決して高慢で傲慢な性格ではなく、寧ろ真面目な好青年。
偉大な将軍だった父とその死、過去の悲劇、まだ若くして家や家族の為に背負っているもの…“陰”が覆い被さり、野心も。
新星トム・ブライスが、人気の大作映画シリーズの主演というプレッシャーと期待に充分応えた。
第12地区からのプレイヤー、ルーシー・グレイ。
TVの生中継でいきなり“問題”を起こし、幸先不安…。が、歌声は見る者聞く者の心を振るわす。
『ウエスト・サイド・ストーリー』で素晴らしい歌声を披露したレイチェル・ゼグラーはそれが決め手になって抜擢されたと言えよう。
本作でも見事な歌声や問題児故の存在感を放つが、歌は必要だったのかな…?
コリオはあの手この手を使ってルーシー・グレイを優勝させようとする。
いつしか二人の間に…このロマンス要素も前シリーズを踏襲。
殉職した偉大な将軍の息子と問題児。嫌でも注目や関心を集める。
ゲームメーカーのゴール博士(怪演のヴィオラ・デイヴィス)やハンガー・ゲーム考案者のハイボトム(クセ者のピーター・ディンクレイジ)は期待や目を光らす。
そんな中、いよいよ第10回ハンガー・ゲームが始まった…。
開幕前からプレイヤーを動物園の檻に入れたり。
トラブル続出で、ゲーム開始前から死亡者が出たり。
コリオの友人セジャナスはハンガー・ゲームの危険性を訴える。
今も昔も生死を懸けたサバイバル。若者たちが殺し合い、富裕層がそれを“娯楽”として楽しむ。その非情さ、異常さは変わらず。
中盤の見せ場となるが、前シリーズと比べるとスケール感やスリルに乏しい。
64年前の設定だから、昭和時代のようなアナログ感…? あの大量のヘビは勘弁だけど。
コリオの“手助け”もあって、ルーシー・グレイは優勝を果たす。
絶対優勝ナシと思われていたコンビの優勝だが、何だかあっさり。
2時間半強の尺で、まだ1時間近く残っている。
今回はゲームがメインではない。その後が要。
コリオの心境の変化…。
ゲームでの不正がバレ、コリオは貧困地区の治安維持部隊に飛ばされる事に。
自ら第12地区を希望する。理由は言うまでもない。
ルーシー・グレイと再会。愛を育む。
名誉は傷付いたが、手に入れた幸せ。しかしそれは、ほんの束の間だった…。
パネムへの反乱計画。しかもそれに、友人セジャナスが関与。
言い合い。友情に亀裂。
密告。セジャナスは処刑。激しい自責。
反乱計画の一件でコリオは殺人を犯してしまう。ルーシー・グレイと遠い地へ逃げる事を思い付く。
が、道中二人の間に…。殺人の証拠の銃も巡って…。
信頼し、愛した相手に裏切られた。殺されかけた。
ルーシー・グレイは本当にコリオを裏切ったのか…? コリオの被害妄想か…?
悲しみ。怒り。憎しみ。
木々の間にルーシー・グレイと思われる人影が横切り、コリオは咄嗟に銃を…。
コリオは何故独裁者になったか…?
ラストの声のみだが大統領となったスノーの台詞。
「人を最も夢中にさせるものが、人を壊す」
それが愛であり、それに裏切られた。
そのきっかけとも言える悲しいエピソードだが、安直とまでは言わないが、ルーシー・グレイとの関係で何となく予想は付き、ちと深みに欠け、ありきたりにも感じた。
前シリーズでスノーが何故カットニスに固執したか…?
“マネシカケス”や“カットニス”というワード、この第12地区での出来事は嫌でも思い出し、重なる。ここら辺はニヤリとさせるリンク。
本作も悪くはなかったけど、でもやはり前シリーズのカットニスのキャラ、演じたジェニファー・ローレンスの魅力は秀逸なものだった。
恩赦が与えられ、キャピトルに戻ったコリオ。
だが彼は、もうかつての彼ではなかった。
どちらかと言うとハンガー・ゲームに否定的だったコリオ。が、再びゴール博士にハンガー・ゲームの必要性を問われ、説く。
自身にとって邪魔なある人物を秘密裏に殺害。
ラストシーン。勝利の女神像を見つめるコリオ。
鳥の歌声を失い、歩んで行くは、蛇の道。
独裁者への座へまだ一歩踏み出したばかりで、ルーシー・グレイの生死もあり、まだ語れる“ゲーム”はありそうだ。