「エンドロールで余韻も消し飛ぶが、それ以前に構造の穴が大きすぎる」ある閉ざされた雪の山荘で Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
エンドロールで余韻も消し飛ぶが、それ以前に構造の穴が大きすぎる
2024.1.12 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(109分、G)
原作は東野圭吾の小説『ある閉ざされた雪の山荘で(1992年、講談社)』
ある別荘に集められた7人の劇団員が事件に巻き込まれる様子を描いたシチュエーションスリラー
物語の舞台は、関東の海沿いの某所(ロケ地は千葉県館山市)
そこにあるロッジ「Shiki Villa」にでは、劇団「水滸」の次回作のオーディションが行われることになっていた
集められたのは、劇団のリーダー・雨宮恭介(戸塚純貴)、劇団のトップ俳優・本多雄一(間宮祥太朗)、劇団に出資している会社の令嬢・元村由梨江(西野七瀬)、由梨江への恋愛感情を拗らせている田所義雄(岡山天音)、前回の演劇で公演直前に役を下された中西貴子(中条あゆみ)、劇団の主宰である東郷陣平(大塚明夫)との関係を噂される笠原温子(堀田真由)、そして、劇団員ではない俳優・久我和幸(重岡大毅)の7人だった
久我は前作のパンフを手に彼らを認知し、そこに名前がありながらも来ていない浅倉雅美(森川葵)のことを思い出していた
彼らは別荘に入り、それぞれの部屋に荷物を置く
レストランで働いている久我が調理を担当し、その助手に由梨江がついていた
それをよく思わない田所が因縁をつけるものの、それは劇団員にも疎まれている態度だった
その後、東郷からのルールの説明が遠隔で入り、「ある閉ざされた雪の山荘で」という次回作の「探偵役」をこのオーディションで決めることが告げられる
そして、この事件は連続殺人事件で、犯人に指名された人間から退場するという流れになっていた
翌朝、最初に姿を消したのは、ワガママで貴子とトラブル続きだった温子で、どうやらピアノを弾いていた際にヘッドホンのコードで首を絞められて殺されていたことがわかる
貴子は真っ先に犯人と疑われるものの、死体の移動ができるわけがないと反論する
外部犯、複数犯の可能性も出てきて、現場は疑心暗鬼で満たされていく
そして、2日目には由梨江が姿を消し、彼女の血痕がついたと思われる血まみれの花瓶がリビングで発見されるのであった
映画は、完全ネタバレにふれないと書けない部分があるので、以降は「映画の構造自体をネタバレした状態」で感想を展開する
なので、完全ネタバレを避けたい人は、こので読むのをやめてほしい
映画の率直な感想は「三重構造」の設定は良いが、その構造だと「久我があの場所にいる理由が放置されて終わっている」というものだった
映画は、いわゆる「劇中劇」となっていて、ラストでこの顛末を舞台化したことが判明する内容になっている
物語の構造としては、前回の理不尽に思える落選で劇団を辞める雅美を励まそうとした面子が怒りを買っているというもので、彼らの訪問の後に「雅美が事故に遭った」ということが描かれていた
雅美は彼らを殺したいほど憎んでいて、それを本多が実現させるように見せかけて、実は雅美を騙すほどの演技をしていた、となっている
なので、このオーディションはでっち上げで、ターゲット三人に加えて、カモフラージュで残りの2人が選ばれていることになる
そうなると、嘘のオーディションに部外者が呼ばれるという理由がわからず、本多が探偵役として久我を招き入れたという理由でもない限り、彼がその場にいるのは不自然に思える
このあたりが映画では完全にスルーされているので、劇中劇の構造になっている段階で部外者をどう絡ませるのかまで頭が回っていない状況になっているのではないだろうか
実際のオーディションに乗じてという線もなくはないが、後半で「雅美が書いた脚本を3人に渡している」ので、そうなると東郷と本多が雅美の再生のために結託していることになるが、その線を維持するのは相当難しいように思える
原作では明かされているとか、映画による改変が起こっているとかは言い訳に過ぎず、最もしっくり来るのは「ラストで雅美にネタバレをしないといけないが、あの二人は頭が悪くて無理なので、前回のオーディションで光っていた久我を招き入れた」というものだろう
そして、屋外での秘密の会話を通じて、今後のシナリオの再調整をして、探偵役としてスムーズなネタバラシをさせた、というのが本筋であるように思えた
いずれにせよ、原作ありきの作品だが、この構造の不和に原作者が気づいていないはずがないので、何らかの表記があるが、それを裏付けるものがあるのだと思う
むしろ「部外者」にせずに、新入りにしとけばこの構造になっても問題になっていないのだが、そうなるとどの段階で誰にネタバラシをさせるのか問題が浮上する
新入りの探偵能力など予知できるものではなく、どう考えても結託していないと話にならない
なので、その辺りをキチンと組み込んだ上で久我を配していれば、余計なことを考えずに済んだのではないか、と感じた