「テロという暴力に非暴力で抗う意義と困難を、被害者に寄り添う視線で描いた一作」ぼくは君たちを憎まないことにした yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
テロという暴力に非暴力で抗う意義と困難を、被害者に寄り添う視線で描いた一作
家族をテロで失った作家に常に寄り添うような映像が印象的な一作です。テロの具体的状況など凄惨な描写は最小限に抑え、悲しみを抱えた主人公がそれでも前に進もうとする姿を丹念に描いています。
本作は2015年に実際にフランス・パリで起きた同時多発テロを題材としており、主人公のアントワーヌ・レリス(ピエール・ドゥラドンシャン)もまた、実在の作家です。タイトルはテロで妻を亡くしたレリスが、SNSで発表した声明の一節。鑑賞前はこのメッセージの発表までの過程を描いた映画なのかな、と想像していましたが、実際には序盤ですでに発表までのいきさつを描き、物語の大部分はその後の、レリスの葛藤を描くことに重点を置いています。
暴力に対して暴力で報復することは互いの憎悪を高めあうことにしかならない、そう理解はしつつも、どうしようもなく湧き起ってくる怒りにどう対処したらいいのか、帰ってこない母を恋しがる子供にどう接したらいいのか。これらは簡単には答えられない問題だけに、レリスの苦しみは直接的に観客に届いてきます。
世界各地で争いと憎しみの連鎖が続いている今だからこそ、観られるべき作品であることは間違いありません。
なお作中では、テロに至る経緯や、実行グループ側の人物像、思惑についてはほぼ割愛しているので、事前でも事後でもテロ事件について知っておくと、より一層作品の理解が進むかも。
コメントする