「父と息子の和解の物語とミステリアスな展開には引き込まれるが、ラストには納得することができない」大いなる不在 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
父と息子の和解の物語とミステリアスな展開には引き込まれるが、ラストには納得することができない
理屈っぽくて、どこか浮き世離れしていて、あまり「お近づき」にはなりたくないような元大学教授を、藤竜也が好演している。
恩師のお別れの会で、弔辞を述べているはずなのに、いつの間にか自分のことを話しているところなどは、確かに、こういう老人っているよなぁと思わせる。
25年ぶりに再会した息子に対しても、自分が彼(息子)とその母親(元妻)を捨てたことを謝罪するでもなく、母親(元妻)がどうしているのかを尋ねるでもなく、逆に、息子を教え諭すような態度を取るのだが、この辺りも、「教育者の悪い癖」がよく出ていて、説得力がある。
ただ、そんな父親も、俳優をしている息子の記事をスクラップしていたり、再婚相手の息子の結婚式には参列しなかったりしていて、実の息子のことを気に掛けているらしいことが分かる。
やがて、認知症になった父親が、記憶が錯綜する中でも、息子のことを「たっくん」と呼んで、しっかりと認識し続けていたり、幼かった息子に酷い仕打ちをしたことを謝ったりするところから、息子に対する愛情が鮮明になっていくのだが、ここは、人の本性が露わになるという認知症の特徴が上手く活かされていると思う。
息子の方も、父親が再婚相手に宛てた手紙を読むことによって、彼(父親)が、自分(息子)と母親(元妻)を捨てた経緯を知るのだが、それは、自分自身が結婚をした、今だからこそ理解できることなのだろう。
そんな、長年離ればなれだった父と息子の和解の物語が本筋ではあるのだが、本作を引っ張るのは、あれだけ仲睦まじく暮らしていた父親の再婚相手が、どうして姿を消してしまったのか、あるいは、今、どこで何をしているのかという「謎」である。
再婚相手の息子が出てきて、真偽が定かではないようなことを話したり、再婚相手の妹が父親の世話をしていたらしいことが分かったりと、再婚相手の「不在」に関するミステリアスな展開にはグイグイと引き込まれる。
おそらく、最後に、彼女(父親の再婚相手)が父親(自分の夫)を捨てた理由や、誰とも会いたがらない理由が明らかになるのだろうと期待していると、そうしたオチは一切用意されておらず、完全に拍子抜けしてしまった。
だとすれば、彼女(父親の再婚相手)は、父親(自分の夫)が認知症になり、自分のことを認識できなくなったという理由だけで彼を捨てたということになるが、それでは、あまりにも薄情だと言わざるを得ないし、第一、無責任過ぎるのではないだろうか?
現実社会で、認知症になった伴侶を最後まで献身的に介護する人々の姿を実際に目にするにつけ、このラストには到底納得できないし、いったい何が言いたいのかも理解することができなかった。