「その先に、待っているもの」ハピネス cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
その先に、待っているもの
全身ロリータでにこやかに、自分はもうすぐ死ぬ、と告げるユウ。告げられたユキオは、あわてふためきながらも告白を受け入れ、余命一週間を共に過ごすことに同意する。こんな、地上3、4センチ浮き上がったような冒頭の設定が、すんなり受け入れられるか。そこが、この映画にノレるかどうかの分かれ目だと思う。個人的には、余裕綽綽のヒロイン(蒔田彩珠)の佇まいからくる説得力で十分、ユキオのモノローグは少し煩わしく思えた。けれども、中盤にきて完全無欠のロリータ、ユキオの姉・月子(橋本愛)が登場したとき、ピースは完璧にハマり、物語が動き出した気がした。
ロリータファッションは、清楚で可憐な女の子の証。泣いたり怒ったりは似合わない。残された時間を満喫しようとする、ユウの思いにぴったりだ。私はロリータファッションにもファッションそのものにも疎いけれど、ファッションの持つ能弁さを、本作で改めて知った。ロリータファッションを優雅に着こなす月子が、公園で感情の片鱗を見せたとき、彼女の笑顔の奥にある、寂しさや悲しい記憶がにじむ。だからこそ、今現在の彼女には揺るぎなさがある。それは、死期を迎えたユウが、ロリータさんデビューする思いにもつながっていくのだ。
さらには、無茶ぶりな娘を最後まで笑顔で支えようとする、母(吉田羊)のロリータファッションも愛おしい。もっさりとした父(山崎まさよし)がこだわった、赤とピンクのバラだらけのお葬式も、悲しいはずなのに微笑みを誘う。こうしてみると、本作は、主人公ふたりの物語ではなく、ゆるやかに繋がった人々が、大きなうねりを乗り越えていくさまを描いているのかもしれない。ふたりが旅先で、たまたま遭遇した旅行者と笑顔を交わし、高揚しながら皆で写真におさまる。あのシーンが、キラキラした夜景と相まって忘れ難く、好きだ。
死は、時間を止めるもの。…と思われがちだけれど、本当は、残された人の時間の流れをゆるやかに、なめらかにしてくれるのかもしれない。彼らのその後を、今を、ふと考えたくなる。ふたりが出会った学校の友人や先生がほぼ絡まない(彼らを見守る存在があったら、より広がりが生まれたと思う)ところなど、物足りなさやぎこちなさも多少あるけれど、思い起こすたびに顔がほころぶ、タイトルどおりの作品だ。