市子のレビュー・感想・評価
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名もなき人
突然行方不明となった恋人市子を探す長谷川はその行方をたどるうちに彼女の壮絶な過去を知ることとなる。そしてようやく現在の彼女にたどり着いたとき彼女はもはや自分の知っている彼女ではなかった。そもそも自分が知っていた市子という女性はこの世に存在したのか。
貧困、劣悪な環境で育った彼女には戸籍がなかった。法の不備やネグレクトなどが原因で今の日本では累計一万人もの無戸籍者がいると推定される。
重度の障害を抱える妹の介護は実質母子家庭では彼女の役割だった。ヤングケアラー、部屋には当然クーラーなどない。
むせるような夏の暑い盛り、彼女は妹の呼吸器を外す。息絶える妹、それに感謝する母親、これで肩の荷が下りたと。幼い彼女にとってそれは自分を守るためにした行為だった。
しかし、妹の戸籍を借りて学校に通う彼女の生活は妹の介護から解放されても変わらなかった。義理の父による性的虐待、それに耐えかねた彼女は相手を殺してしまう。苦しみから逃れようとした行為がさらなる苦しみを生む、この不幸な境遇を洗い流してくれと言わんばかりに彼女は土砂降りの雨に身をさらす。
高校を卒業し家を出た彼女、無戸籍ゆえにできる仕事は限られる。こんな自分は普通に生きていくことはできないのか。
過去を捨て市子として生きようとした彼女は長谷川と出会いひと時の幸せを手に入れる。だが彼からのプロポーズを受けた矢先、彼女の過去が容赦なく追いかけてくる。着の身着のままでその場から逃げ出す彼女。
市子として新たな人生を生きようとした彼女だったが、戸籍のない彼女はこの社会では存在しないも同然だった。婚姻届けも出せないのだ。そして自分は殺人者だった。この社会で誰でもない自分は殺人者であることだけは確かだった。そんな自分が長谷川と幸せになれるはずがなかった。
彼女は自分の境遇を呪ったことだろう。戸籍のない自分はこの社会では何者でもない、何者でもない自分がこの社会の何かに縛られて生きなければならないなんて理不尽だと。だからこそ彼女は何者でもない存在として最後の手段をとったのかもしれない。
市子の行方を捜す長谷川が彼女にたどり着いたとき、それはすでに自分が知っている彼女ではなかった。月子でもなく市子にもなれなかったどこの誰とも知れない自殺志願者の女なのだ。
自分の過去を知る同級生の北を殺し、自分の身代わりとなる女性も殺してその戸籍を奪った彼女。壮絶な人生の末にもはや引き返すことのできないところまで行きついてしまった彼女。
この社会のすべてのセーフティネットから零れ落ちてしまった彼女を誰が救えたのだろうか。自分ではどうすることもできない境遇に生まれ苦しみ続けた彼女が生きていく唯一の道はこれしかなかったのだと、そうするしかほかに道はなかったのだと思わせるほどの壮絶な悲しい人生。
作品冒頭とラスト、夏の日差しの下で汗を垂らして無心で歩く彼女の姿が描かれる。彼女は何者になったのか、ただの冷酷な殺人者か、あるいはこの社会でもがきながら生き抜こうとする何かか。
人間社会で置き去りにされた一人の女性の狂おしいまでの悲痛な叫びが聞こえてきそうな作品。女優杉咲花の存在感に圧倒された。
このような社会派を装った駄作を持ち上げる事こそ日本の闇
やたら絶賛されていたので鑑賞したが、何でも他人のせい、"日の当たらない場所に光を当てている自分"に酔った人間が作ったとしか思えない非社会派ダークファンタジーとでもいうべきか。まさかジョーカー、半地下の家族のような知性のない駄作が日本でも作られ絶賛されるとは…ただただ呆れるばかり。少し考えれば、おかしい事ばかりなのだが。
そもそも子どもの権利は?
終始カメラの揺れが酷すぎて酔った。こんな酷い物をお金を貰って人に見せようとする神経が理解出来ない。お金を貰っても見たくない。観客を馬鹿にしている。
ここからはネタバレあり。
まともに取材してないのがまるわかりな駄作。
この妹は障がい者手帳を貰ってないのか?
福祉サービスも一切なしであの医療器材はどうやって調達維持したのか?
重度の障害を持っているはずの子供が学校に健常者として通ってばれないのか?
病名だけ提示して雑な作りで病気を軽々しく道具として扱うことに躊躇もない作りで社会派ぶった作品。
市子は杉咲さんの作品選びの信用を失墜させた。今まで杉咲さんの作品はわりと見たが、それがなかったら二度と見たくない俳優になっていた。
先日杉咲さんが次の作品のインタビューでその事について話していたが、考えを改めたということだろうか。
3年も一緒に暮らして嘘をつかれてたわけでもなく素性を知らなかったのも、そんな相手にプロポーズするのも気持ち悪い。誘拐犯の心理みたいなものだろうか。
そもそも3年一緒に暮らしてる感じが全然しないのは演技力の問題なのか俳優同士の相性が悪いのかわからないが全く説得力がないと感じた。
市子が泣いたのはちょろい男と住んでたが、また1からやり直さなければという涙なんだろう。それにしても逃げようとしてるのに次の日テレビを見る余裕っぷり。長谷川が帰って来てから慌てるのも不自然。
警察が一般人にペラペラ話し行動を共にしたり、長々と戸籍の説明をし同情を誘っていたが、違和感しかない。
宣伝文句で市子を宿命としていたが、全くもって宿命ではない。子供の時の戸籍がない事も宿命ではなく、悲劇程度。親が出生届を出さなかっただけでいつでも改善出来ただろう。実際宿命は病気を患い自身の自由が効かない妹に使うべき言葉だ。一度は戸籍を取得しようとした時点で逃げたのは自分の意志。
そもそも、夫に居場所がばれない為に出生届を出さないという知識があるのが違和感なくらい何も考えずだらしない母親で矛盾を感じる。夫に問題があるなら通報し、戸籍は子供の当然の権利として取得、事実婚の相手が本当に家族として受け入れるなら養子に出来そうだが。役所が使えないと言いたいのかはわからないが、この母親がそこまでの努力をしていないように感じるが、子供の権利まで奪って役所に相談せずにいた理由はなんなのか。たしか妹は3歳違いだったはずだが、妹の戸籍は取得。せめてその時点で相談しないのはなぜか。不幸な可哀想な母娘演出と法律を無視する母親の選択をまさかの法律から抜け落ちたかのような演出に辟易する。小学校で誰もが習ったはずのこどもの権利条約すら忘れて書いてるのか?法律は守りません。でも権利は主張します。というような活動家の映画だろうか。まぁそういう人間もいたとしよう。その責任も当然親が負うべき事だが。
日本で子供が学校に行かなければ一般的に不審がられる。妹になりすますまで声も出さず、外にも出ずだったのか?
母親が申請しなかったとはいえ、妹になりすまし外の世界を知っているなら殺人が問題だとわからないわけはない。演出では介護が大変だったように見せようとしていたようだが、さして介護をしているような演技ではなかった。杉咲さんは過去作で介護を担う役を演じてそれなりに見えていたが、本作では普段から介護らしい介護はしていなかったようにしか見えなかった。逆にそういう演出ならば、介護苦での殺人というよりただ邪魔だからということになる。
窓開けておいて市子が襲われそうになってるのをわかりながら外から見ているのも気持ち悪い。インターホンなり大声で忘れ物!とでも叫べば状況変わるぐらい出来そうなのにしない。無理やり気が利かない男にしてそのシーンを見せるのも気持ちが悪い。殺人への持っていき方も雑。
北が気持ち悪いストーカーのように扱われていたが、むしろ長谷川の方がより気持ち悪いなよなよストーカーにしか見えなかった。それを良い人のように見せようとするせいで尚更気持ち悪い演出だと思った。
若葉さんの演技も演技に見えない自然な演技というよりただやる気がないように見えた。泣きそうな顔してるだけ。よく考えたら若葉さん出演作品いくつか見たことがあったが全部内容もなくだらだらと気持ち悪かった。そこで気づくべきだった。
病気の妹は雑に扱いながら中盤の無駄に長いキスシーン。この監督はこれが撮りたかっただけなんだろう。ただ気持ち悪いだけだったが。わざわざ見せなくても学生時代からそういう子だったことはいくらでも見せられる。
実際に題材になっている状況下にいる人に対して、あまりにも無礼で、フィクションだから何をしてもいいという驕りを感じた。
唯一森永さんはいい俳優だと思った。杉咲さんと森永さんの無駄遣い。同じ題材でも中学生ですらここまで酷く書けないだろう。
無理やり良い点をあげるなら見た感想でその人の犯罪傾向がわかることくらいか。
馬鹿みたいに騒ぐ頭空っぽ映画の方がずっとマシ。★0.5もつけたくない邦画史上最低な駄作。
うーん
無国籍児が就学できないわけではない。
戸籍を奪う必要はない。
設定がおかしい。
それが殺人の動機になるのは弱すぎる。
杉咲はなに得も言われぬ説得力があるので持っていかれるのだけれだけれども、
よく考えると、うーん。
52ヘルツもそうで、彼女の演技力というか説得力で持っていかれて、でもちょっと待てよ、
みたいな感じ。
どうしようもないトラウマや事情を内に抱える主人公
というのがはまる杉咲だけれども、
こちらの期待の演技になっているので、
どうだろう。
もったいない感じがする。
杉咲花の熱量
Amazonプライムで視聴。
撮影も脚本も構成もとてもバランス良く出来た作品だと思う。
一緒に暮らしていた女性が突如失踪して、その行方を追う恋人の物語。
彼女の過去が徐々に詳らかになり、彼女の背負ってきたもの、人生を知っていく。
この作品の見どころはなんといっても主役の杉咲花の芝居だろう。
感情を押し殺した芝居と溢れ出す所のギャップは惹きつけられるものがある。
これまでの男性にとって、どこか放って置けないオーラと魅力を、表情と佇まいだけで表現する彼女の芝居は凄まじいものがあった。
無戸籍が故に難病の妹の戸籍で学校に通い、夢も希望もなく、身勝手な大人たちに巻き込まれていく。
好きになっても家庭の事は打ち明けられず、夢を持っても上手くいかない。自分の名前さえも言えない少女時代は人格形成において致命的だろう。
精神がおかしくなっても無理はない。
最後は、自殺願望のある自分に似た背格好の女性と、自分を慕っている同級生を自殺に見せかけ、死んだ女性の身分証で新たな人生を生きていくのだろう。
彼女の終着点はどこなのか、どうしたいのか、行き着く先を知りたいと思った。
何人も殺してしまった彼女に平安はないのかもしれないが、捕まるのか、逃げ続けるのか、また誰かと暮らすのか、納得感が欲しいと個人的に思いました。
余韻は良いんだけどね。
タイトルなし(ネタバレ)
「幸せな時もあった」そう語る母親
最後に恋人との過去の幸せな時間を回想する市子
他人だけじゃなく、自分のこれからの幸せさえも犠牲にしていく
過去の幸せな思い出の為だけに、苦しみながらも生きる道を選び続ける市子には同意も出来ないし理解出来ない
それでもその強さには圧倒された
そせて杉咲さんの演技、魅力にもまた圧倒された
いつ見ても凄い役者さんだなと思う
自分なりの解釈を描きます
市子が月子の酸素マスクを外して殺すシーンで市子の見た目が今に近すぎて時系列が噛み合わない問題について
市子が月子を殺す回想シーンは実際に起こったことではなく市子の中で都合よく改変された記憶だと考えます。
市子が今の姿に近いのは、市子が月子として過ごしていた時間の記憶を自分の中で消して市子として生きていくという決心をしたからなでは無いかなと思っています。(人間は自分に都合の悪い記憶を消すと言いますし)
少し怖い
映画自体の感想ではないが、私が目にした映画の感想が市子に同情的なものが多くて少し怖くなった。酌量の余地はあってもシリアルキラーではないか。「虹」を口ずさみながら浜辺近くの道をのんびりと歩く姿は、裏を返せば恐怖そのものだろう。もし作り手がそれらしくないシリアルキラーを描きたかったのであれば大成功だと思う。
都合よく見てはいけない場面に遭遇するとか、気になるところはあったが、観る人にわかりやすいサスペンス仕立てで、蝉の鳴き声の演出もまとまりがあってよかったと思う。
ただいま。 おかえり
ただいま。と言える相手と帰る場所を手にしたのに、それを自ら手放さなければならない境遇というのは、それが過去の罪によるものだとしてもむごい事だな
最後に市子は身分証をまんまと手に入れて長谷川の元に帰ろうとしたのか?
それともさらに逃亡を続けるのか…
長谷川と出会ったときは新聞配達の住み込みバイトをしていて、そこのオーナーが倒れてからは無職だったよな。
でも、新聞配達の仕事先で出会ったキキちゃんとケーキ屋の仕事に転身した?
ケーキ屋時代に北と再開してる?
この辺がこんがらがってきて、難しかった…
年表があるらしいので、それを見ればハッキリするとは思うけど。
普通に…生きたいだけ
市子のような存在
TVで聞いたことがありました
今の時代に戸籍を
持てない事に驚きです
法からすり落ちた人たちの哀しみ
この人たちは
戸籍のないことで名前も本来は無い
市子とは親から呼ばれていた
ニックネームのようなもの
市子の苦しみは計り知れない
ここに。今。存在しているのに
…今との繋がりあっても
社会との繋がりがなく
常に不安を抱えながら
生きている
戸籍のない人たちは
戸籍のある人たちと
同じ世界で生きているのに
全く違う世界なのだろう
日常の世界に色があるとしたら
市子の世界は色のない世界
そして妹を殺めた
…二重の苦しみで 自分は
幸せになれないと思いながら
…生きてきた
生まれながらにして
不幸を背負ってしまった運命
どうすることも出来ないのが悲しい
…だから
自分を必要としてくれる
彼からプロポーズを受けた時は
手で拭うほどの涙が
流がれたのだろう
…生きてきて
一番しあわせを感じた時
生きる場所を探し求めてきた市子
…市子の苦しみは
戸籍を持つ人にはわからない
戸籍を持っているだけで
…しあわせだから
杉咲花の
悲しげで脱力感、無気力な表情が
…心に残る
"花火を見たい"と言った
皆おなじ夜空を見上げて見る花火
願いは…叶うのかな
市子という名の女の子は悪魔なのか?
この映画は、スタートシーンから最後に繋がっています。
彼女の鼻歌を歌いながらスキップするシーンが記憶に残ります。
彼女が生きて来た、人生は全くの悪なのか?彼女が魔性なのか?
それだけとは、思えませんでした。
どんどん、”市子”に吸い込まれそうになりました。
【”最高や‼全部流れてしまえ!と驟雨の中、彼女は叫んだ。どのような環境下でも自分の存在と向き合い続け、世間的、法的に存在を認められない女性のキツイ生き様を見事な構成で描いた作品。】
ー ご存じの通り、今作は戸田監督が率いる劇団が演じた「川辺市子のために」を底辺としている。-
■市子(杉咲花)は、3年間一緒に暮らして来た長谷川(若葉竜也)からポロポーズをされた翌日に失踪する。
長谷川は市子の事を何も知らなかった事に気付き、刑事の後藤(宇野祥平)を含め、市子を知る人達の証言を集める中で、彼女の壮絶な過去を知るのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・観ていて、キツイ映画である。楽しい気分にはならない。
・市子の失踪の理由はTVから流れた東大阪市生駒山で白骨化した遺体が見つかったというニュースである。
■市子は母なつみ(中村ゆり)となつみの恋人(渡辺大知)と妹で難病筋ジストロフィー症を患っている月子と徳島で幸せそうに住んでいた事が、市子が肌身離さずにいた写真を見れば分かる。
だが、時は残酷でなつみの恋人は市子に手を出す様になり、市子も月子の看病に疲れ月子を殺してしまう。(直接的な描写はない。)そして、月子を生駒山になつみの恋人と共に埋めるのである。(ここも、直接的な描写はない。)
・今作を見ると、300日問題により無戸籍児になった過程は、鑑賞側の推測に任されるが、市子が病気になっても”病気は嫌い。”と言い絶対に病院に行かないシーンや、市子のバックの中にあった時子の保険証を長谷川が見つけるシーンから容易に推測できる。
ー 故に、市子は友人のキキ(中田青渚)に”私は、夢を持っちゃいけないんだよ。”と言うのである。-
・市子が、時子に成りすまして生きて来た半生が明らかになる過程は、サスペンス要素もタップリである。
<それにしても、市子を演じた杉咲花の悪魔的と言っても良いほどの虚無感漂う姿は凄い。
こんな、杉咲花は見た事が無い。
市子は、自殺願望のある首筋に火傷の跡がある女(石川琉華)と、一時期はなつみの恋人に乱暴されそうになり、その男を刺した市子を匿ってくれた北(森永悠希)を自動車に乗せて断崖から突き落として殺すのである。
彼女の”自分の人生を歩みたい。”と言う思いがあのような行為をさせたのだろうか。
何とも、切ない作品である。>
<2024年2月18日 刈谷日劇にて鑑賞>
生きることへの渇望
市子は市子として生きたかったんだよね。
人は簡単には変われないとも思うし、二面性・三面性もあるとも思う(家族の前での自分、友達の前での自分、職場での自分…)。本当の「市子」はどの時だったのか?を考えてしまった。
幼き頃の家族写真に写る市子は間違いなく市子であった。そこから20年弱の時を経て、現在28歳の市子が市子として生きていけることを望みたかった。
しかし、物語終盤、彼女に想いを寄せ彼女を助けたかった高校の同級生と、自殺願望のある女性が乗った車が海に沈む。(何らかの方法で市子が車を沈めた、または死を仕向けたと思われる。)
誰かの死と引き換えにしなければ身分さえ手に入れられないという闇。でも、そこまでしても市子は生きたかったのだと。
独りよがりの生への渇望とも思えるが、オープニングとエンディングで市子が鼻歌で歌っていた童謡「にじ」。自ら殺めてしまった障がいをもつ妹の寝床の天井に描かれていたのも虹。それが繋がった瞬間、自分のためだけじゃない、死んだ妹の分も生きたいのではないかと思った。
市子の母親もにじを口ずさんでいた。徳島を訪れた長谷川とのシーンからも分かるように、愛する娘を殺したくなんてなかったはず。でも、介護に疲弊しきっていた。
月子が息を引き取ったあと、母親が市子に掛けた「ありがとう」が何とも重く切ない。母親のためというのもあったのだろうか。月子の呼吸器を外す前、月子の身体を拭いた後「暑いな」と声をかける市子の顔には滴るほどの汗。
劇中はどこをとっても夏のシーンなのだが、この汗が、生きることへの苦しみも表現しているように思えた。月子をこの苦しみから解放してあげたかったと同時に、自分への解放でもあったのだろうか。
同棲する長谷川の家で作ったクリームシチューを少しずつ頬張る市子。小学校の同級生梢の家で出されたショートケーキを上品に食べる市子。(大人になってから下宿先のキキがくれたケーキを食べる時もとても丁寧。)長谷川と初めて会った場面で、縁日の焼きそばを静かに口に運ぶ市子。
それとは対照的に、自分の弁当を溢され「夕飯どうしてくれんねん」と激昂する小学生の市子。涼しい顔して万引きをする市子。高校の時の恋人宗介との熱い口付け。夕立の雨に打たれながら「最高や」と叫ぶ市子(乾ききった市子への潤い)。
冒頭にも書いたが、どれが本当の市子なのだ?となる。観終わって思うのは、長谷川の前での彼女は取り繕った市子なのでは?ということ。それとも、本当の市子として生きられていると感じていた矢先、長谷川からのプロポーズによって自身の身分の闇に改めて触れてしまったのか。
母親が働くスナックで、市子ではなく月子と呼ばれているシーンで、市子は戸籍がないのでは?と推測し、婚姻届を拒んで失踪した理由とも繋がった。でもここではまだ月子との関係がわからない。
そして、刑事さんが長谷川の家を訪れたシーンで市子は87年生まれという情報が出てからは、自分より3歳年上ね、という視点で観ていた(私自身が90年生まれ)。しかし、高校生のシーンで記された西暦におや?と思う。ゆうに高校生である年齢を越えているはずでは…。一瞬、計算を間違えたかと思ったが、月子のことを含めて後にそういうことだったのか!という伏線回収に繋がった。構成が秀逸である。
現在も過去も、描かれているのは夏。その描写がじわじわと身体に入り込んでくるようで、観終わったあととても喉が渇いていた。乾くということは、潤いを求めて生きているということだ。
ファムファタール。
今年初の映画館での鑑賞作品。池袋で映画を見るのは恐らく50年ぶりか?映画館の入っているロサ会館という建物は建物全体が昭和でびっくりした。作品は兎に角悲しい。国籍の無い子供の話を何度かメディアで耳にしたことはあるが本作もそれがメインテーマ。僕は関西弁を話す女性と付き合ったことはないが、長谷川(市子のフィアンセ)に感情移入してしまった。彼の演技は実に良かった。可哀想な環境とはいえ実に逞しいファムファタールを完璧に演じている。北(高校の同級生)は幸せだったと思う、彼女のヒーローになるという目的を果たしたのだから。
淡々と
進んで良かったんですが・・ラスト近くなり、はっきりと失速。あんな幸せそうな、思わせぶりな音声を被せるなら鼻唄で終わった方が良かった。
宇野祥平が最高。ちょっと気がかり、杉咲花キャストかぶりの予兆。
『誰も知らない』の後日譚?
主演の二人は、朝ドラ『おちょやん』で共演していた覚えがあった。パンフレットの森直人氏評のように、『砂の器』や『ある男』との近似性も感じたが、無戸籍で育ち、死体遺棄を行うという展開は、『誰も知らない』の後日譚とも思われた。「安楽死」や自殺幇助問題も含んでいる。楽天的な面しかみせなかった YOU 氏の演じた母親と比べると、中村ゆり氏の演じた母親は、転落気味だけれど、良心の片鱗をみせてくれる。市子の義父はソーシャルワーカーだったらしい。残念である。成り済ましを続けようとする市子に、義則がいつか追いつけると良いだろうな。
今期ベスト映画
無戸籍なうえ、家庭にも恵まれず、神様にも見放されたような一家の物語であり、胸が締め付けられた。
そんな非力な市子がそれらを跳ね返すように強く生きていく様が描かれていた。
だがそのキャラとは一変するシーンが数多くあり、とても恐ろしく感じた。
親の血からは抗えないとは言うが、ストーカー北くんに対しての扱いというのは本当に残酷だった。その立ち振る舞いはまるで水商売主の母親譲りだった。
そんなギャップもありハラハラした。
問題は長谷川くんがどうなってしまったのか。
長谷川くんの気持ちを考えるとやるせない。
戸籍問題や、悪い家庭環境が無ければ2人は望む通り結婚できていたと思うと本当に辛い。
市子の生き様
久しぶりに有楽町のマックで昼食を取り、日比谷シヤンテで杉咲花の熱演が話題の「市子」を観る。
プロポーズの翌日に失踪した市子を探す恋人の視点を中心に、彼女の過去と現在が交錯して市子の生き様が見えてくる。
日本社会が抱えるシングルマザー、無戸籍問題が根底にあり、決して彼女ひとりの話ではない。日本は国民皆保険であるが、戸籍が無ければ保険証も手に入らず、病院にもかかれないのである。
高校生から30歳までを演じる杉咲花はさすがである。
あの子なんか気になる…
最初はちょっと気味悪い少女だと思って観ていたが、だんだんと惹かれ、中盤からは彼氏と同様に本当の彼女はどんな人物なのか真剣に探しながら鑑賞していた。
唐突につぶやかれる意味深な言葉や大きくて黒い眼差しによって、彼女は今何を思って何を感じているのか、過去に何があったのか知りたくなってしまう。
ラスト以降に彼氏は市子を見つけることができたのか?また見つけたとき市子はどのような行動を取るのか?考えただけでぞくぞくする。
この作品を2023年内に観なかったことを後悔している。
確実に年間ベスト10に入っていた。
生きて欲しいと思ってしまう
たとえ人を殺していたとしても市子には市子として生きて欲しいと思ってしまった。
杉咲花が個人的にはとても良かった。
今までも素敵だと思っていたが、より魅力を感じた。
始まりの関西弁とプロポーズでの涙にきゅんとした。
物語が進むに連れて家庭に問題のある過去がわかってきた。
欠落した感情と彼女の儚さと取り乱さない姿に惹かれる。ミステリアスだけど可愛らしい。
関西弁で言う彼女のありがとうは痺れた。
雨の中、雨に打たれに行く彼女。
花火を、みんながが上を見るから良いと言う彼女。
ケーキ屋で働くクリスマス仕様の彼女には思わず可愛いと言ってしまいそうになる。
神社でゆっくり焼きそばを食べるのもいい。
こうなってくるとただの杉咲花ファンになってしまう。
でもそれが市子。市子を好きになってしまうのは仕方がないし、殺人を犯してるなんて誰も思わないだろう。男性陣が俺が守ると言いたくなるのもわかる。
必死という感じでもない、すこんと生きることができている。全てを知った長谷川はどうなるのかな。
物語はベビーな内容だけど、疲れなかった。
最後までどうなっていくのか気になって面白かった。
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