「アウトロー。」市子 movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
アウトロー。
花ちゃん。。
生涯通して無戸籍な人生の壮絶さは、最初から最後までずっと辛かった。
無戸籍だとこんなにできないことがあるのか。
遺産相続、パスポート運転免許取得、銀行口座開設、就職、国家資格の取得。。
長谷川さんと出会い、25歳くらいから初めて家庭というものを味わえた市子に笑顔が多い。より一層それまでの人生の重さを知った後だからこそ、市子にとっての家族愛が幻に近いかけがえのないものであることにかなり泣いた。
ちはやふるを観た後だと、百人一首のちはやぶるの龍田川周辺の生駒山に、千年後には妹の白骨化死体かーと思うし、同級生北くんは、あ!机くん!
アンメットの前にこんな深い映画を撮っていたらそれは、若葉竜也と杉咲花の演技の関係性は相当に深く出来上がっているはずだわと納得しかない。
母の離婚後半年以内に産まれ無戸籍となった市子は、3年後に産まれた筋ジストロフィーで立ち上がるのもままならない妹の月子の戸籍を借りて、10歳から小1と偽り小学校に通い、水商売の母のかわりに妹の介護をして生きてきた。
家庭は貧しく、友達の家の常識とはなかなか食い違ってしまい、子供なりにお返ししたくてもお店の物を盗んで返すしかできず、下着も買って貰えない状況。
幼いうちはそれが一般的な家庭と比べて異質である事も、振る舞い方もわからないから、奇特なことを友達の反応で知っていく。さぞかし寂しく辛かっただろう。
母のお店のお客さんの介護福祉課の小泉が妹の関連からか家に出入りするようになり、母に手出ししている。
母も市子も弱者として限界を感じていたところで、熱い夏の日、ふと妹月子の人工呼吸器が暑そうで外してあげようかなと思い立った市子は、本当にやってしまった。帰宅した母から言われた言葉は、まさかの、ありがとう。これ以上ないほど親子は疲弊していた。
その妹を小泉の力も借りて生駒山に埋めたあとは、それを理由に小泉は市子にも手出しし襲うようになった。ある日はずみで小泉に逆らい殺してしまったところを、同級生で市子を好きな北くんに見られる。
小泉の遺体は北くんの助けを借りて踏切に置き、電車に轢かせて処分した。そのあと行方をくらました市子だったが、戸籍がないので新聞配達の仕事をしていた。そこでの友達キキとケーキ屋さんになる夢を初めて持ち、これまで名乗っていた月子から、市子と名乗り方を変えたのだ。やっと自分として生きたくて。
しばらくしてケーキ屋さんで働くところを北くんに見つけられた時も、もう関わらないでと言った。
その後、市子としてお祭りの焼きそば屋台で長谷川さんと出会い、3年一緒にいてプロポーズもされた。
でもその翌日市子は失踪。
市子は、小泉と母と市子と妹で幸せだった瞬間の写真と、月子の保健証を隠し持って行こうとしていたが、長谷川さんが帰宅し、置いて出るしかなかった。
それを手掛かりに、必死に探す長谷川さんは今まで市子から語られなかった市子の数々の生い立ちを知っていく。市子の母なつみから全ての顛末を聞いた後には、泣いていた。こんなにも過去もまるごと受け入れようとしてくれる人と出逢えたのに。市子は無戸籍どころか殺人2回である。
しかも、生駒山から見つかった遺体から、警察は絞りを進めていく。
市子は北くんに匿ってもらっていたがそこにも警察が。
戸籍がない不利益、
行き場のない産まれ、
居場所のない育ち、ここまでは仕方ない。
ひと夏の間に、要介護の妹の息の根を止め、翌月小泉もはずみで殺した。
ここまでも情状酌量の余地があるかもしれない。
戸籍取得も検討したが指紋を出せば過去がバレる。
結婚したくても、タイムリーに妹の遺体はあがるし、無戸籍でできない。
川辺市子名でSNSに投稿し呼び寄せた自殺希望者と、北くんを呼び寄せた市子は、2人を車ごと海に落とし殺人し、合計4人を殺めたようだ。
貧困の連鎖、ヤングケアラー、きょうだい児、性被害とてんこもりの人生で覚えてしまったのは、愛よりも戸籍の乗っ取りだったか。
でもどこからなら引き返せたのだろう。
北くんに警察が来たのは気付いていて、北くんが警察に打ち明け済だったなら、北くんまで殺す必要はなかったはず。
北くんが警察には言わずに隠し通すほど市子に執着しているのを想定済だからこそ、殺したのではないか?
そう思うと、市子は苦しい環境で育つ中で既に、黒い闇も身につけてしまったと思われる。
戸籍の外だけでなく、法の外にも行ってしまった今、市子はどこに生きているのだろうか。
母親なつみもまた、市子は最初の夫、暴力男との子。月子は2番目の夫、借金男との子である。
つくづく男運がなく水商売で生きている身。
子供たちどちらも、本当は望んでいなかったのかもしれない。
そんなことに多感な時期、市子が気付き始めていたとしたら、月子が呼吸を止めた日、帰宅後に母親なつみが鼻歌で虹を歌うのを聴いて、自分の事もいらないのだろうなと思ってもおかしくはない。
だから、小泉の後の失踪か?
やっと夢を見つけても、それは殺人の後。
本名で身寄りのない自殺希望者を呼んだのは、もう川辺市子であることも葬ることにしたからなのだろう。
乗っ取った戸籍で、次はどんな人生を送るのだろうか?鼻歌の歌詞から、市子が花火を好きな理由がわかる気がする。
みんなが上を向いているから安心する。
そうだわ、下には埋めてしまった家族がいるもんね。
庭のシャベルが一日濡れて 雨があがってクシャミをひとつ
雲が流れて光が差して 見上げてみれば ラララ
虹が虹が空にかかって 君の君の気分も晴れて
きっと明日はいい天気 きっと明日はいい天気
洗濯物が一日濡れて 風に吹かれてクシャミをひとつ
雲が流れて光が差して 見上げてみれば ラララ
虹が虹が空にかかって 君の君の気分も晴れて
きっと明日はいい天気 きっと明日はいい天気
花は水をあげなければちゃんと死ぬから安心する。
そうだよね。
愛情を返してもいないのに、全て知っていてずっと追いかけてくる北くんには不安だよね。
しんどい人生なのに死ぬこともできず、殺す側になり自分は生きている。
新しい戸籍で、いつか東大阪から石川、徳島へと行った母親の事も、事情を知る者として殺めにいくのだろうか?
探してくれている長谷川さんのことも、殺めにいくのだろうか?
北くんを殺した市子にはもう、共感できなかった。
社会の片隅で法からはずれ、人生そのもの闇に陥ってしまった市子は罪を償ったとしても、誰と名乗るのだろう。
抑えた演技が得意な花ちゃんにしか、できない弱者一般人の役。
それでも花ちゃんから溢れ出る目力を消すために、ずっとブサイクに見える髪型をさせられている。
美味しそうに食べるなぁと言う長谷川さんに、あったりまえやわキャベツの子やで!と突っ込んでしまった。