「ふたりに幸あれ」市子 るる 新垢さんの映画レビュー(感想・評価)
ふたりに幸あれ
市子を近くで見てきた人たちの多角的視点から、市子という人物について解き明かされていくかんじが面白かった。人間の多面性がよくわかるおはなし。
長谷川演じる若葉さんは、「長谷川は市子の過去を無理に知ろうとしない優しい人物ではなく、ずるくて弱い人間」と言っていた。市子がなにかを抱えているのはわかっていたけどそれを知って自分に受け止めきれるのか怖いから逃げてた。やさしさという鎧で自分を守って。人と一緒にいることって相手のいいところも悪いところも全部知って丸ごと受け止めてあげることじゃないか。みたいな、とっても深いことを言っていた...
伏線がたくさん貼ってあってミステリー要素も満載で面白い。そして人間物語としても深く重くのしかかってくる。ふつうの人間なら戸籍を持っているのは当たり前。でも彼女には生まれてから戸籍がなく、自分は何者なのかわからず後ろめたさを感じながらずっともがいていたんだと思う。長谷川と出会ってからやっと自分という輪郭がはっきりしてきたというか、生きる意味を見つけたんだと。長谷川と一緒に過ごす市子は生き生きしていた。
そんな中で婚約届を突き出されてうれしいことなのに悲しくて、市子のすべてを知ったあとにそのシーンを見ると胸が打たれる。出会ったときに「浴衣可愛い」といった市子のために浴衣を拵えてくれた長谷川。もう通すことのないとわかっていてお礼をいう市子。嬉しそうにその姿を優しいまなざしでみつめる長谷川。なにもかもせつなすぎる.....
杉咲花と若葉竜也の素晴らしいお芝居でふたりだけにしか出せない世界観がそこに生身の人間として存在していた。本当に素晴らしい
一番好きなシーンは、市子と長谷川の出会いからふたりで過ごしてきた何気ない日々の回想。あたたかい長谷川と笑ったり、時には喧嘩をし、寝顔を眺めるだけで幸せを感じ、同棲もはじめた、幸せな時間。が、いままでの重いテーマを吹き飛ばしてくれるくらいには輝いて見えた。
あんな長谷川みたいな人と、市子の立場で出会ったら間違いなく惚れるし、(そうじゃなくても惚れる)優しく、温厚で、プライドも高くなさそうで、好きにならないわけがない。この映画をみてからしばらくは長谷川ロスになっていた()
最後、冬子の戸籍に上乗りし、希望が見えてきたことをうたう「虹」をうたいながら、長谷川のもとに帰っていく市子であってほしいと願ってならない。