「障害者の月子と健常者の「月子」」市子 talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
障害者の月子と健常者の「月子」
<映画のことば>
それがどうも…。
存在せえへんのですよ。
月子を捨てて、本来の市子を、いわば「取り戻す」ためには、悪魔にでもなるということでしょうか。
要するに、本作の言わんとするところは。
生まれた時から「当たり前のように」戸籍があり、その戸籍を使って(少なくとも法律面では)「当たり前のように」自分というものの存在を同定できる立場にいる評論子らからしてみれば、その苦悩は、容易には推し量ることができないものがあるのかも知れません。
約一億人も住んでいで、そして、これほど完備された戸籍制度を持っている日本は、世界的には、稀有な国と聞いたことがあります。
(アメリカには、日本のように出生から死亡までを一貫して把握できる戸籍制度はなく、申告によって、出生証明書と死亡証明書が取れるだけで、両者の間には関連性(同一人性)が必ずしも担保されていないと聞いたことがあります。(それゆえ、他人への成り済ましが、日本よりは容易とか。)
プリントされてしまえばほんの数枚の紙切れなのですけれども。
しかし「人が無戸籍でいること」のその重さに、慄然とするとともに、本当に胸が痛みます。
そのことに改めて思いが至ったということでは、佳作と評価して良いのではないかと思います。
評論子は。
(追記)
市子の無戸籍も、言ってしまえば今の法律の結果と言うことなのですけれども。
そういう市子のような無戸籍児が出てくる原因は、まだ前婚が解消にならないうちから他と異性関係を結んだという結果にも他なりません。
その民法の嫡出推定規定「だけ」が果たして悪者なのか。
そのへんの議論をちゃんと突き詰めないと、いつまで経っても、法改正の動きは出てこない(出てきても、「子の身分関係の安定」とか「戸籍による身分関係の確実な公証」という建前に、結局は潰されてしまう)ように、評論子には思われてなりません。
(なお、この制度の合理性ということでは、最高裁が平成26年に判断し、科学的な父性の正確性よりも、子の身分関係の安定を優先しようとする制度で、不合理ではない、としていますが、3対2の、いわばギリギリ多数での判決(多数意見)で、誰かあと一人の裁判官が反対に回っていたら、結論が違っていたというケースでしたけれども。)
(追記)
本作の全編を通じて「罵(ののし)り合うシーン」「言い争うシーン」がやたらと多かったというのが、本作を観終わっての、実は第一印象でした。
(追記)
長谷川のプロポーズは、心底では嬉しかったのだと信じたいところではあります。
けれども、彼女の(突然の?)失踪は、彼のそのプロポーズが「ダメ押し」になったことも、また事実だろうとは思います。
評論子は。
ましてや生駒山中での白骨化遺体発見のニュースで、グイグイと背中を押されていた、正にその状況下で。
結局は、長谷川のプロポーズが嬉しければ嬉しいほど、市子には、その嬉しさが「重た過ぎた」ということでしょう。
そう思うと、胸の痛さということでは、本当にやりきれない思いも禁じ得ません。
(追記)
サイトの解説を読む限り、どうやら『名前』は、観たことがありそうなのですけれども(心許ないことで、ゴメンナサイ)。
その一方で、また他の作品を見比べてみたいと思える監督さんに出会えたことは、一映画ファンとしては、嬉しくも思います。
(追記)
民法の嫡出推定制度については、今年(令和6年)4月に施行で、抜本的な(?)改正がありました。
法務省のウェブページで「嫡出推定 改正」で検索すると、いろいろ出てくるようです。
レビュアーの皆さんのご参考まで。
トミーさん、いつもコメントありがとうございます。
そうですね、市子も怖かったですが、市子をそこまで追い込んだ「無戸籍」も怖いなぁと思いました。
人を人食い虎にも変えてしまうということで、「苛政は虎よりも猛なり」って、こういうことを言うのでしょうか。
talismanさん、コメントありがとうございました。
離婚にいろいろと制約を設けるのは、やっぱり、子供の父性を確定するためなのでしょう。
女性を家の外に出さない(いわゆる「奥さん」という言い方?)あるいは女性が外出するときは、黒い布をかぶせて、誰だか分からないようにさせるとかいうのも、そういう「交雑」を避けるための「生活の知恵」だったのかも知れません。
女性のレビュアーには気を悪くされるかも知れませんが(セクハラとかいう意図も全くないのですが)、男親にしてみれば、生まれてきた子供の出自は、妻を信頼する以外に何もないことも、また事実です。
(本当の父親は、母親しか知らない。いや、母親にも分からないケースも実際にはあったりするよう)。
それで、「妻が婚姻中に妊娠した(懐胎した)子は、夫の子と推定する」…ただ、妊娠(懐胎)の時期は客観的には分からない(今の女性には、たとえば妊娠すると…受精卵が子宮に着床すると頭の上に旗が立つような機能は備わっていない)ので、もう一段の推定として「妻が婚姻成立後200日後、離婚成立後300日以内に出産した子は、婚姻中に妊娠(懐胎)したものと推定する」という、二段階の推定を法律はして、子が誰に扶養を請求すべきか、ネグレクトした時に保護責任者遺棄で処罰されるのが誰かを、一義的に明らかにしているということなのだと思います(いわゆる「推定を受ける嫡出子」としての子の地位の保護)。
夫が服役中だったとか、その時期に懐胎することが医学的にあり得ないという医師の照明があったりすると、子の推定は働かないようですが(「推定されない嫡出子」「嫡出推定の及ばない子」)、書類審査権しかない戸籍事務管掌者(市町村長)としては、なかなか、そのへんの夫婦関係の実体は把握しきれないという事情もあることでしょう。
むずかしい問題であるとも思います。
国によっては(今はどうかよくわかりません)、離婚するためには最低でも一年間の完全別居が求められるようです。住まいも口座も何もかも。それで裁判所行って離婚が成立するのでその直後に妊娠がわかっても出産しても離婚相手が子どもの父親ではないことは自明なんでしょうね。離婚届1枚ですぐ離婚できるのはいいのかどうなのかよくわかんないです
共感ありがとうございます。
職場によっては住民票提出の義務が無かったり、保険証が無かったり盲点はまだ沢山有るんでしょうね。にしても一人以外を全て犠牲にした「市子」には恐怖を覚えます。