「そこらへんに転がってる悲劇」市子 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
そこらへんに転がってる悲劇
「ある男」を彷彿とさせる内容ではある。
元が戯曲なだけにセンセーショナルな内容であり、舞台映えはしそうである。ヤングケアラーとかシングルマザーとか生活弱者とか、その劇団のカラーを知り、それ目当てでくる客層には好評なんだろうなぁと思う。
ただ、映像にするにあたりも少し交通整理は必要ではないのかと思う。劇作家であり演出も手掛けたのなら抜け出せない迷宮かもしれないが。
誰が主役かいまいちピンとこない。
タイトルである市子の事が語られはするが、過去が暴かれるだけで、彼女自身の変化にまでは至らない。新たな戸籍を手にするようではあるが、身元不明の遺体を特定する方法は多々あるし…結局、彼女は元の暗闇に戻っただけだ。
彼女の周囲の人々は結構な確率で不幸に見舞われていて…じゃあ、その元凶はなんなんだってなると、障害を持つ妹に行き着く。そこから派生して、その障害者の家庭へのケアが不足してる社会批判も含まれるとかってなるとそんな事もないように思う。
残酷な現実は、普通に、幾らでも転がってるんだという一例に過ぎないのだ。
彼女を追う彼も最後までは描かれないし…。
同情を誘いたいわけでも、感動を届けたい訳でもないはずで、どうにも不完全燃焼な作品だった。
観客はどう思うのだろう?
市子じゃなくて良かったと安堵するのだろうか?
更なる市子を誕生させないようにしようと思うのだろうか?
それとも対岸の火事ではなく、現代の日本で普通に起こる悲劇であると認識を改めるのだろうか?
LIVEではない事で伝えきれないモノは多いと思われる。
ただ、杉咲さんの儚さは絶品だった。
あくの強い関西弁なのだけど、彼女の口から発せられると、とても柔らかく聞こえ好きだった。