「フェラーリの栄光の陰」フェラーリ sumichiyoさんの映画レビュー(感想・評価)
フェラーリの栄光の陰
1957年頃のフェラーリの物語。と言っても、会社名でなく、創業者の一人であるエンツォ・フェラーリの物語です。知られざる私生活から人物像に迫った作品。
1947年、妻ラウラと共同名義でフェラーリを創業。それから10年が経った59歳が本編です。エンツォはレーサー上がりだけあって、挑戦的で情熱的な企業理念と経営方針を持っていました。それが元で経営が火の車だったりするのだけれど、スピードを求める姿勢は今のブランドにしっかりと根づいていますね。経営者タイプでなかった事があの時代に適していたのかも。
その上、私生活の火種も。「愛人」と言えば予想できてしまうのではないでしょうか。加えて、会社の半分を妻に握られている。女性に甘いイタリア人らしさなのか。ただ、そのあたり一言で語れないロマンスがありました。このあたりに時間が割かれすぎてタイトル詐欺と思う人も…。物語からして、タイトルは難しかったでしょうけど。
終盤、エンツォは会社の命運を賭けたビッグイベントに臨む。ミッレミリアで知られるイタリア半島1000マイル耐久レースですね。イタリアの美しい山々に木霊する甲高いエンジン音が素晴らしかった。それでいて、レース機であるフェラーリ315Sはどこか未来的。レース直前のレーサーたちの緊張感と高揚感は見終わると複雑でした。再現度はかなり高いと。
主人公のエンツォ演じるアダム・ドライバーは面影がない!白髪や小太り体型で初老に見せているのだろうけど、よく仕上げた。今ても続く大企業の創業者は難しい役どころでしょうけど、寡黙で情熱的で冷静なイタリア紳士的な演技が好印象だった。でも、ダークサイドに耐える感じと重なる。
本作も今だから理解できる作品でした。一方向だった昔では私生活のスキャンダルや勝利至上主義は隠すべきマイナスイメージだろうけど、双方向な現代なら。少なくとも、情熱は感じました。世代にもよるかも。でも、エンツォを支えた二人の女性がいなかったらフェラーリはどうなっていただろうと考えてしまいますね。