劇場公開日 2024年5月3日

「誤解を恐れずに言うならば、映画としても面白い」人間の境界 mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誤解を恐れずに言うならば、映画としても面白い

2025年3月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

とても面白く、よくできた映画でした。モノクロが美しい。やはりモノクロは、このように撮るべきという見本のような映画。

群像劇で、視点がそれぞれ変わって、それぞれがリアルで切実。

人間を兵器として使うという発想に驚く。ベラルーシは、シリアから難民を受け入れ、それをEUに混乱を起こす「人間武器」として難民を無理やりポーランドに送り込む。
それを不法難民としてまたポーランドはベラルーシに送り返す。物じゃなく、人なのに。物扱い。一人一人に意志があり、泣き笑いがあり、痛みや苦しみがある。そして衰弱、事故などで死んでゆく。苦しみや悲しみは、規制する国境警備員にも、難民支援者グループにも。それらを丁寧にリアルに描き出す。

ラスト近くで、救出した若い難民と受け入れた家庭で、そこの同世代の姉弟たちとラップで交流するシーンは白眉。「千人の人に、千人の死」とかいうラップ。難民やそれに関係する人たち、それぞれに人生があり、生きている人間であると歌い上げているよう。映画的な高揚感があるシーン。

と、結構映画としてドラマあり、サスペンスあり、笑いがあり、切なさがあり、誤解を恐れずに言うならば、映画としても面白い。

監督は、この国境のイザコザ(2021年の出来事)を、最初ドキュメンタリーとして考えていたらしいけど(撮りためていた)、ポーランド政府は隠蔽しようとしていて、ドキュメンタリーとして制作が難しいと判断して、それならば、起きた現場でなくても撮れる劇映画として、作ればいいと考えたとのこと。で、現実の当事者も役者として参加しているという。
公開後は、ポーランド政府からの妨害にもあったとか。

凄いね。映画を作る意志が。それと映画の力がすごい。

mac-in