劇場公開日 2024年4月12日

「籠の中から見る景色」プリシラ うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5籠の中から見る景色

2024年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本人公認でプリシラ・プレスリーの「エルヴィスのパートナー」時代を描いた作品。
劇中、プリシラはエルヴィスの所有物のように描かれる。周囲の人間関係は夫の取り巻きだけ、夫婦の外出のタイミングは夫が決め、着るものも一人で過ごす時の場所も夫が指示する…。今でいうとモラハラや経済DVだろうか。

一人の人物の主観的な作品として、演出が見事だった。
衣装について、プリシラはエルヴィスが着せた服を着られている感たっぷりに着て、自分が選んだ服はスマートに着こなしている。実際の写真や映像には着せられ感はないのだが、エルヴィスが選びプリシラの好みでない服を「着る牢獄」のように見せた仕掛けが面白かった。また照明の明暗を使い分けプリシラの内心を表現するのも効果的だった。
初恋の勢いと十代の行動力に任せて大スターのパートナーになった少女の苦悩や孤独が、痛い程に伝わってくる演出だった。

ただ、著名人の夫婦はパワーカップルとしてどちらも成功者であることが望まれるアメリカ文化の中にあり、ファッションアイコンやタレントとしてプロデュースされていた時期もあったプリシラを「籠の鳥」としてだけ描くのは少々無理がある気がした。
さらに、エルヴィス視点で描いた映画ではエルヴィスの不貞を示唆する程度に扱う一方でプリシラの不貞が明確に言及されてきたように、本作でもエルヴィスの不貞は明言されプリシラの不貞は匂わせに留まる。
プリシラの境遇の描き方については、ところどころもめ事の片方の主張だけを聞かされている時のような眉唾感があった。

本編は2人の関係が破綻したところで終わる。解放されたプリシラのその後こそが近年のこのジャンルの肝のような気がするのだが、やはり監督の過去作からして、籠から飛び立った鳥には食指が動かないのだろう。
離婚後のエルヴィスとの連帯や友情、ビジネスパーソンとして「エルヴィス・プレスリー」というブランドを守ろうとした手腕等、気になるところは数多くあったので、そこは残念だった。

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うぐいす