「ナスターシャ・キンスキーが振り向くシーンと重なる」プリシラ 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)
ナスターシャ・キンスキーが振り向くシーンと重なる
世界を虜にしたエルビスのパフォーマンスシーンは驚くほど少ない。あくまでもその人物像はプリシラから見たものなので、2人でいる時にしか見せない姿や心情であり、我々がこれまで見てきた映画やテレビ、ドキュメンタリーでは目にしたことのない、傷つきやすく弱いエルビスがそこにいます。
「Saltburn」「キスから始まるものがたり」のジェイコブ・エロルディが演じ、「エルヴィスで」(2022)でオースティン・バトラーが演じたエルビスとは違った魅力を放っています。現在のプリシラ(78歳)と個人的に対話を重ね、彼女の視点に寄り添うと決めたソフィア・コッポラ監督にしか描けない、プリシラとエルビス2人だけの世界をまるで覗き見ているような感覚に陥ります。
そして、その14歳から20代後半の大人の女性へと変化を遂げるプリシラの感情と姿を、「パシフィック・リム アップライジング」のケイリー・スピーニーが繊細に演じ分けて体現。第80回ベネチア国際映画祭で最優秀女優賞受賞も納得の演技で観る者を魅了します。
冒頭、西ドイツの米軍基地内のダイナーのカウンターで勉強している、ポニーテールのプリシラに後ろからカメラがゆっくりと近づいていきます。声をかけられて振り向いた時の表情にはまだあどけなさが残っていますが、そのシーンは「パリ、テキサス」(1984)のナスターシャ・キンスキーが振り向くシーンと重なって見えるほど美しい。
コメントする