「【犬の映画】」DOGMAN ドッグマン てっぺいさんの映画レビュー(感想・評価)
【犬の映画】
「レオン」の監督が描く、孤独な男の物語。女装の理由、車椅子の訳、そして沢山の犬達となぜ生きているかが次第に明かされていく。ノワールな雰囲気もさながら、ワンちゃん達の微笑ましい名演技にも注目。
◆概要
2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。
【脚本・監督】
「レオン」リュック・ベッソン
【出演】
「ゲット・アウト」ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
「フレッシュ」ジョージョー・T・ギッブス
「ザ・ベイ」クリストファー・デナム
【製作費】2000万ユーロ(約30億円)
【公開】2024年3月8日
【上映時間】114分
◆ストーリー
ある夜、1台のトラックが警察に止められる。運転席には負傷した女装男性がおり、荷台には十数匹の犬が乗せられていた。「ドッグマン」と呼ばれるその男は、自らの半生について語り始める。犬小屋に入れられ、暴力を浴びて育った少年時代。犬たちの存在に救われながら成長していく中で恋を経験し、世間になじもうとするも、人に裏切られて深く傷ついていく。犬たちの愛に何度も助けられてきた彼は、生きていくために犬たちとともに犯罪に手を染めるが、「死刑執行人」と呼ばれるギャングに目をつけられてしまう。
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◆以下ネタバレ
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◆DOGMAN
「神は人間に犬を与え給うた」との格言が記される冒頭。本作において神と犬が重要なキーである事もここに示される。ダグラスは犬を与えられた事も、小指を失った事も、脚を不自由にした事も神の思し召しと説く。ケージ内で兄が貼った「神の名のもとに」(IN THE NAME OF GOD)が、裏側からはDOGMANになる描写が秀逸。“神の名のもとに”という信念のもとに信じられない愚行を重ねる家族、その反対にケージという地獄の中でも犬との絆を築いていく表裏の図式が、映像としても文字面としても巧みに表現されていた。そしてこのシーンこそが、その後ダグラスが小指を犬に運ばせるまさにDOGMANとなった、象徴的なスイッチにもなっていたと思う。不運な少年期を過ごし障害までも負ったダグラスが、職を断られ続けるシーンに心が痛む。ついにありついたキャバレーの控え室でメイクを施す様子はどこか「ジョーカー」('19)を彷彿とさせる。しかし本作では、“神が与えたもうた”犬のおかげでダグラスも人の道を外す事はなかった。
◆犬
2023年の「パルムドッグ賞」は、「落下の解剖学」のボーダーコリーに渡ったが、本作のワンちゃん達にも同等の賞を与えてほしい笑。ギャングの“タマ噛み”から、泣き崩れるダグラスに何匹も寄り添う優しいシーンもあれば、ラストのギャングとの“犬殺陣”もある。ダグラスがケーキを作る材料を集めるシーンは特に、無塩バターの当番を待ち続けるコーギーが何とも微笑ましい。ダグラスが前半で語った、犬の唯一の欠点である“忠誠心”。まさにその通り、ダグラスにいつも寄り添い、時に悪行ではあるものの、その手足となって働く犬たちの存在がとても優しい。本作を見て犬が欲しくならない人はいるのだろうか笑。
◆ラスト
車椅子から立ち上がったダグラスに十字の影が重なり、まるでキリストのような肖像となるラスト。思えば、彼が車椅子を立つのは、ショーで“彼のなりたい何者か”になる時(エディット・ピアフになりきって歌うケイレブの恍惚の表情がとても印象的)。不自由な体になりつつも、冒頭の“神が与えたもうた”犬たちによって自由を得たダグラス。本作で終始、彼は冷静に神の存在を言葉にする。彼の最後の選択は、義賊としての行いから脱し、人に“与える”存在である神となる事を求めた、あのラストはそんな風に自分には思えた。ダグラスは、エヴリンが暴力夫に怯える“痛み”を理解し寄り添い、また棲家の番犬だったドーベルマンが彼女を見守るように佇んでいたのも、そう考えると頷ける。そんな“神”の存在が犬たちにも通じ合い、ダグラスの周りに次々と伏していくラストカットがとても印象的だった。
◆関連作品
○「レオン」('94)
リュック・ベッソン監督の代表作。ジャン・レノとナタリー・ポートマンの出世作でもある。Netflix配信中。
○「コロンビアーナ」('11)
レオン続編の頓挫後、そのアイデアを元にして作られた精神的続編。「ニキータ」('90)と合わせて実質的な三部作と言われている。Hulu配信中。
◆評価(2024年3月8日現在)
Filmarks:★×3.8
Yahoo!検索:★×3.1
映画.com:★×3.6