劇場公開日 2025年2月14日

  • 予告編を見る

「これぞ男爵芋」愛を耕すひと 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 これぞ男爵芋

2025年6月18日
PCから投稿

荒れ地の開拓を性格のねじ曲がった領主に邪魔しまくられる話。史実に基づいて書かれた原作だそうで、デンマークの王政時代にドン引きする高ストレス歴史ドラマだった。

爵位を得るためとはいえ、不毛地帯でじゃがいもを育てて有効活用させようってのに、宮廷に蔑まれ領主に阻止され、どうなってんだおまえら。
当時デンマークには土地緊縛制度という若い男性を荘園に縛り付ける事実上の奴隷制度があったことと、ずっと荒れ地だったから荒れ地のままにしとかないと王に「おまえら今まで何やってたんだ」と叱られちまうと思っている宮廷と領主が、ケーレン大尉(マッツ)の開拓事業を、あの手この手をつかって妨害してくる。

マッツはいつもどおり悲愴感漂いまくるし、宮廷はやる気なしで失敗すりゃいいと思っているし、酷薄な領主役の人物造形が巧くて憎たらしいのなんのだし、想定を軽く超えてくるトラウマチックなドラマだった。

ちなみに「愛を耕すひと」という邦題はぜんぜん違くて、この題だと激動の開拓史と愛が連動して語られるみたいな寛厚なイメージだが、原題Bastarden英題The Promised Landのモチーフは憎悪や復讐である。
ふぬけた宮廷、くそみたいな領主、有色人種を悪魔だから縁起悪いと言う暗愚な農民、袖しか出てこない王。どこに文明があるんですかという話。
理不尽な事態だらけで、むかつきにムカムカし怒りにぷるぷるするのでJennifer Kent監督のThe Nightingale(2018)の鑑賞体験に似ていた。

このころ日本じゃ蘭学者の青木昆陽が救荒作物としてさつまいもの普及に尽力していた。18世紀から黒船あたりにかけ、西洋世界に比べて日本が立ち後れた文明であったかのように歴史が紹介されているが、こういうのを見ると日本が制度的に成熟していたことが解る。
ヨーロッパてのは王たちが農民を搾取したり有色人種の国々へでかけちゃ植民地化・奴隷化しているだけで、なんも有用なことはしていなかった。
バイキングが海賊業なのは後世の盛り話だがデンマーク人が血の気の多い民族なのは間違いないと思った笑。
傑作Riders of Justice(2020)や特捜部Qのライターであるニコライアーセルが監督。デンマーク映画のクオリティの高さを感じるいい映画だった。

ランキング参加中
映画

コメントする
津次郎
PR U-NEXTで本編を観る