「タイトルなし(ネタバレ)」愛を耕すひと りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
18世紀のデンマーク。
国土の多くを占めるユトランド半島は荒地だった。
救貧院に身を寄せる退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉(マッツ・ミケルセン)は、王領地の荒地開拓を申し出る。
資金は軍人年金。
開拓の暁には貴族の称号が欲しい、と。
それは、貴族の私生児として生まれた自身の出自、その汚名返上だった・・・
といったところからはじまる文芸映画。
原題の「Bastarden」は「私生児」の意。
彼の名誉を賭けた後半生の物語。
ケーレンが開拓に着手した土地は王領地であるが、近隣の領主デ・シンケル(シモン・ベンネビヤーグ)は、自分の土地と言って譲らず、悪質な嫌がらせを仕掛けてくる。
デ・シンケルは、元々のシンケルの苗字に箔をつけるために自ら「デ」をつけたぐらいの輩。
ケーレンは、シンケルの元から逃亡した小作人夫婦を雇い、また森で暮らす流浪民を雇い、開拓を続けるが、するうち、逃亡小作人夫婦の夫はシンケルに捕らえられて、文字どおり煮え湯を浴びせかけられて殺されてしまう。
流浪民たちもシンケルの企てで去り、ケーレンのもとに残ったのは、逃亡小作人の妻アン・バーバラ(アマンダ・コリン)と、黒い肌から周囲から忌み嫌われる少女アンマイ・ムス(メリナ・ハグバーグ)だけになる。
ケーレンは、シンケルの従姉妹エデル(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)から思いを寄せられるが・・・
と展開する。
悠揚とした語り口で、前半はややもたついた印象があるが、ケーレンをはじめ清濁ある人物造形が物語への深みを生んでいる。
強そうだから強い、弱そうだから弱い、という訳ではない人物造形。
ケーレンも、ある種の妥協も引き受ける。
このあたりは、演じる側の力量・魅力も試されるわけで、マッツ・ミケルセンの演じっぷりは堂々としている。
ただし、敵役シンケルやその側近がややステレオタイプか。
これは俳優に魅力がないのか演出が悪いのかはわからず。
登場する女性たちはそれぞれ魅力的。
気丈夫なアン・バーバラはわかりやすい人物像だが、シンケルの従姉妹エデルの役どころはやや複雑。
エデルの出番はもう少し多くてもよかったかも。
物語的には、終盤、着地点が予想出来ず、かなりの面白さ。
納得の終局で、満足の一篇。
日本版タイトルは、やや甘い印象。
「荒れ野を耕すひと」ぐらいでよかったように思えるが、それだと商売にならないかも。
トーマス・ハーディ小説の映画化『テス』『日蔭のふたり』『めぐり逢う大地』が好きなひとは必見です。