「凍てついた心を溶かす純真」愛を耕すひと Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
凍てついた心を溶かす純真
18世紀のデンマーク、不毛の荒野(ヒース)が広がるユトランド半島の物語。
アメリカの西部開拓物語は山ほど観てきたが、デンマークの開拓史とは今回初めて出会った。ただ、ハリウッド的な白黒はっきりした勧善懲悪とは趣がかなり異なり、絶望の中にわずかな光を見出し、耐え忍んだ先にようやくほのかな希望を得るのがせいぜい。「不幸でないこと」と「幸福であること」は決して同義ではないが、それでも、多くの人々の人生にとっては、「不幸でないこと」をもってよしとするしかないのも現実だろう。
だからこそ、北欧の厳しい凍てつく冬を乗り越え、春にジャガイモが一つ芽吹き始めると同時に、凍てついたケーレンの心も少し溶かして周りの人々への優しさを見せ始める様を見ている観客たちの心も少し暖まるのだろう。
もちろん物語の主人公はケーレンなのだが、彼を突き動かしているのはアンマイ・ムスの存在だろう。原題である "Bastarden" というデンマーク語の単語は英語の "bastard" に相当する。罵り言葉として使われたりもするが、「私生児」や「雑種(白人と黒人のミックス)」などを意味する語だ。まさにアンマイ・ムスを指したタイトルで、肌の黒い、南方の血が混ざっている遊牧民族出身の彼女は忌み嫌われ、露骨に差別も受けるのだが、真っ直ぐで純粋な心根こそが逆に人々を繋ぐ救いとなっている。
そして、アンマイ・ムスに限らず、身分や性別、人種などによる差別が当然のように横行する時代背景があるにも関わらず、手を携えることで差別を跳ねつけようとする姿が見られることもあったのであろう。あたかも不毛な荒野に果敢に挑み、なんとか収穫を得ようとするかの如く。