「羊の解体もお手のものなので、アレをスパッとできるのも納得できてしまう」愛を耕すひと Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
羊の解体もお手のものなので、アレをスパッとできるのも納得できてしまう
2024.2.19 字幕 MOVIX京都
2023年のデンマーク&ドイツ&スウェーデン合作の映画(127分、G)
原作はイダ・ジェッセンの小説『Kaptajinen og Ann Barbara』
不毛の地の開拓に命を賭けた退役軍人と奇妙な縁で結ばれる擬似家族を描いたヒューマンドラマ
監督はニコライ・アーセル
脚本はアナス・トマス・イェンセン&ニコライ・アーセル
原題の『Bastarden』は「私生児」、英題の『The Promised Land』は「約束の地」という意味
物語の舞台は、1755年のデンマーク
戦争を終えて役割を解かれた退役軍人のルドヴィ(マッツ・ミケルセン)は、財務省に出向いて、不毛の地の開拓を申し出た
だが、宰相のパウリ(ソレン・メーリング)は無駄だと断罪する
それでも引き下がらないルドヴィは、私財を投げ打って、その事業に取り掛かることになった
デンマークの北部にあるユトランド半島には、ヒースと呼ばれる不毛な土地が広がっていて、国も50年近く開拓を試みるものの、誰もが成し得ていない事業だった
だが、デンマーク王フリゼリク5世の念願でもあり、財務省はルドヴィを派遣することに決めた
ルドヴィは単身その土地に乗り込み、家と倉庫を建てて開拓を始めていく
地元の牧師のアントン(グスタフ・エイン)は協力的で、近くの荘園から逃げた小作人のヨハネス(Morten Hee Anderson)とその妻アン・バーバラ(アマンダ・コリン)を秘密裏に雇わないかと打診する
ルドヴィは二人を雇い、アンには家事係として働いてもらうことになった
だが、ある夜のこと、物音がして倉庫に出向くと、そこには盗みを働くタタール人の少女アンマイ・ムス(メリナ・ハグバーグ、15歳時:Laura Bilgrau Eskild-Jensen)がいた
彼女を捕まえて、集団のところに出向くものの、タタール人を雇うのは犯罪行為だと言われてしまうのである
それでもルドヴィは彼らを雇い入れて、開拓を始めていく
だが、その様子は偵察隊によって、軍裁判官のフレデリック(シモン・べネンビヤーグ)の耳に入ってしまう
さらに、彼の元を逃げ出したヨハネスのこともバレてしまい、ある夜の宴席にして、熱湯炙りの処罰で殺されてしまう
フレデリックの暴挙はそれだけに止まらず、その土地の権利は元からフレデリックのものだったという書類にサインをしろと迫る
ルドヴィは頑なに王の領土だと跳ね返し、それによって、フレデリックの横暴はエスカレートしていくのである
映画は、史実ベースとのことで、ルドヴィもフレデリックも実在の人物とのこと
ルドヴィの方の行方は不明だが、フレデリックが狂人であったことは資料に残されているらしい
ドイツ人入植者やデンマーク人がタタール人を拒むのには色んな理由があると思うが、一番わかりやすいのは宗教なのだと思う
ドイツ人やデンマーク人はキリスト教徒だが、タタール人はムスリムであり、さらに流浪の民としての生活様式にも違いがあった
それだけではない何かがあると思われるが、映画ではそこまでは描かず、不幸を呼ぶ者としての象徴として描かれていた
その後、ルドヴィは家族と目的のどちらを選ぶのかという決断が迫られるものの、彼は後悔の残る判断をしてしまうのである
映画の見どころは、フレデリックの横暴に対抗するシーンで、彼を良く思わない人々が阿吽の呼吸で「計画」を遂行していく様子が描かれている
いとこで一方的に結婚を迫られているエレル(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)は、アンの用意したワインをフレデリックに飲ませるし、彼女が中に潜入していることを使用人のリーセ(Nanna Koppel)は黙認し、さらにフレデリックをエレルのいるところまで誘導する役割を担っていた
その直前に使用人のアン(Anna Filippa Hjarne)がフレデリックによって転落死させられていたこともあって、フレデリックの執事のボンドー(Thomas W. Gabrielsson)ですらドン引きしていたりする
そんな中で、フレデリックの狂気だけが突出し、それがアンの復讐へと結びついているのだからすごいことだと思う
ボンドーは財務省にフレデリックの悪事を全て話し、それによってルドヴィは解放されるのだが、それと引き換えにアンが投獄されてしまう
何度も嘆願書を送っても受け入れられず、とうとうコペンハーゲンの職業刑務所へと移送されることが決まった
この時、ルドヴィの功績は王室に認められ、貴族の称号を手に入れることになったのだが、彼はそれらを全て捨てて、ある行動に出た
映画は、そこを詳しくは描かないが、それが却って哀愁を漂わせている気がした
いずれにせよ、かなり重たい話で、良き人も悪しき人も不遇の死を遂げる映画でもあった
動物の殺傷シーンもある(CGらしい)し、なかなか絵作りは強烈なところもあるので、後半はなかなかスプラッターな作りになっている
それでも、前半の鬱屈とした圧政などが不穏さを増長しているので、アンの復讐劇はなかなかスカっとするものがあった
刺してなお足りずからの「アレ」はなかなか強烈で、生きながらえても地獄しか待っていない
ある意味、介錯にも思える部分があるのだが、それを見たエレルの笑顔も秀逸で、その後の執事たちの掌返しもなかなかのものだなあと思った