「むしろ「人の無情さ」が前に出た映画」愛を耕すひと キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
むしろ「人の無情さ」が前に出た映画
帰って来てからもずっと考えていて、何度かこのレビューも書き直している。
原題の「Bastarden」は訳すと「庶子」いわゆる私生児ということらしい。
なるほど、主人公ケーレンは私生児だし、アン・バーバラは領主に暴行されて逃亡中、アンマイ・ムスは親も分からず邪魔モノ扱いされている。
どこか似通った存在で、世の中に否定された人々が、居場所を求めて肩を寄せあって必死に生きていく姿を描いた作品。
荒涼とした大地にまさにへばり付く様にして、「新たな繁栄」の萌芽を求める主人公ケーレン。
それを良く思わない領主からの嫌がらせにも屈しない彼の強い信念と、それに関わった人たちとのドラマ。
物語としては非常にシンプルで分かりやすい。
寒々しい曇天の荒野の味わいもいい。
マッツ・ミケルセンの抑制された演技も決して悪くない。
ただなぁ。
すごく雑にまとめると「最後まで悲しい昔話」。
私がこの時代の彼らの習俗や価値観、メンタリティをよく知らないってのはある。敵役の(デ)シンケルが相対的にものすごい悪役だから、他が目立たないってこともあるんだけど、やっぱり登場人物がみんな、良くも悪くも「身勝手」に感じられてしょうがなかった。
タイトル「愛を耕すひと」ってあるけど、「荒れ地を耕すことと上手くかけてみましたけど」みたいな、浅薄な感じが強い。ホントに愛、耕してますか?これ。
最後にはケーレンはあれほど求めた貴族の位も捨て、愛した女性を取り戻して世を捨てる…というのも、物語全体の色合いと違和感がある。
私は、この物語の中ではずっと、主人公でさえも「その瞬間の実利」のために他人を使っている様にさえ見えた。
解決もいわば「暴力」に依存する部分も多くて、もちろん時代を考えれば否定できないし、映画的なカタルシスもあるが、結果として人と人との繋がりや愛情というより、「人の無情さ」が際立つ映画に見えてしまった。
むしろ「『愛』って、なに?」という作品として私は受け止めたんだが、どーだろう。
私も同じような印象持ちました。マッツ大好きです。が、この映画では前半では、かなり冷たい頑固な人、貴族の称号を求めるのも自分の出自ゆえあの時代では仕方ないとしても、と色々考えざるを得ませんでした。ドイツ映画「ステラ」では、主人公役への批判や共感できない、というレビューがとても多いのですが、出自ゆえに苦しまざるを得ないどころか殺される立場のユダヤ人であるステラにあまりにも厳しい目なんだなとショックを受けました。ケーレンもステラも同じじゃないか?女には女優には厳しいのかな、なども考えてしまいました。邦題、仰る通り、ダジャレか?と思いました