オッペンハイマー : 特集
355ノミネート・333受賞…アカデミー賞最多7部門受賞
なぜこれほど絶賛? その物語、全貌が明らかに
「テネット」監督の最新作。天才の頭脳を体感する体験。
5つの“重要な事実”を知り、鑑賞するか判断してほしい
第96回アカデミー賞で最多となる13部門にノミネートされ、同じく最多となる7部門を制覇した「オッペンハイマー」が、3月29日に日本公開される。
「TENET テネット」「インセプション」などで知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作。世界各国の映画賞で総計355ノミネート・333受賞(3月11日時点)と、数字上では“絶賛”と言える評価を受けている。なぜそこまで高く評価されているのだろうか?
2023~24年に最も話題となった映画のひとつであるものの、考えてみると(物語やキャストなどの詳細情報が積極的に発信されていないこともあり)私たちは本作のことを意外なほどよく知らない、という事実にはたと気がつく。
今回の特集では、本作の要素を整理し“「オッペンハイマー」の5つの重要な事実”と題して紹介。どんな物語なのか? 誰が出演しているのか? スタッフは誰なのか? どのくらい評価されているのか? そしてどんなテーマが描かれているのか?
この記事を参考にして、やがて公開される「オッペンハイマー」本編を、ご自身で目撃するか否かを検討することに役立ててもらいたい。
「オッペンハイマー」劇場公開 この映画がなぜ世界で
絶賛されているのか? 浮かび上がる5つの重要な事実
【①:どんな作品?】
天才科学者の頭脳と心を五感で感じさせる“没入体験”を目指した演出が特徴
まずはあらすじと、その映像体験などの特徴から“どんな作品なのか?”を解説していく。
ピュリッツァー賞に輝いた書籍「オッペンハイマー(上・中・下)」(早川書房刊)を原作に、クリストファー・ノーラン自身が脚色。第2次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を、実話に基づき描く物語だ。
第2次世界大戦中、物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。
物語は2人の人物を中心に描かれる。1人はオッペンハイマー(カラー映像)。もう1人は、オッペンハイマーと対立していくストローズ(モノクロ映像)。2人の視点が絶え間なくスイッチされ、異なる時代で開かれた2つの“裁判”を往還し、紡がれていく。
映像は、極限の体験をもたらすIMAX®カメラで撮影され、天才科学者の頭脳と心を五感で感じさせる“没入体験”を目指したという。ノーラン監督はこう語る。「様々な観点から私たちはオッペンハイマーの精神の中に潜り込み、観客を彼の感情の旅に連れ込もうと試みた」。
アメリカでは2023年7月に公開され、世界興収10億ドルに迫る大ヒットに。これは実在の人物を描いた伝記映画としては歴代1位となる記録である。
【②:誰が出演している?】
主演にキリアン・マーフィ、共演にロバート・ダウニー・Jr.、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ラミ・マレックら超豪華な面々
キャストの名を見て「この人も出ているのか」と驚くかもしれない。
主人公のオッペンハイマー役を演じるのはキリアン・マーフィ。ノーラン監督作品にはこれまでも「バットマン ビギンズ」「ダークナイト」「ダークナイト ライジング」「インセプション」「ダンケルク」に出演している常連俳優だ。
また、オッペンハイマーの妻“キティ”役に、「クワイエット・プレイス」などのエミリー・ブラント。原子力委員会委員長であり、やがて主人公と対立するルイス・ストローズ役には、「アイアンマン」「アベンジャーズ」シリーズなどのロバート・ダウニー・Jr.。
「オデッセイ」「インターステラー」のマット・デイモンがマンハッタン計画の指揮を執るレズリー・グローヴスを演じ、さらには「ミッドサマー」「デューン 砂の惑星 PART2」のフローレンス・ピュー、「パール・ハーバー」「ブラック・ホーク・ダウン」のジョシュ・ハートネット、「ダンケルク」「TENET テネット」のケネス・ブラナー。そして「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケイシー・アフレックといったアカデミー賞受賞俳優が顔を揃え、全米俳優組合賞(SAG)では最高賞とされる《キャスト賞》に輝いた。
なお第96回アカデミー賞では、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)を受賞した。
【③:誰が監督した?】
「ダークナイト」「インターステラー」「TENET テネット」のクリストファー・ノーラン監督 IMAX®で観るために創出された映像体験
クリストファー・ノーラン監督。ヒース・レジャーの怪演が記憶にこびりつく「ダークナイト」。観客を夢の奥の奥へと誘う「インセプション」。外宇宙の旅と重力と円環を描いた「インターステラー」。時間の逆行と混沌を映し出す「TENET テネット」……。斬新なアイデアを盛り込んだプロット、VFXを極力排除し実物大のセットを用いる撮影手法、IMAX®カメラを使用した迫力の映像などで知られる。
さらにスタッフ陣にも一流が結集。撮影監督は「インターステラー」以降すべての作品でノーランとタッグを組むホイテ・バン・ホイテマ。本作ではIMAX®65ミリと65ミリ・ラージフォーマット・フィルムカメラを組み合わせ、最高解像度の撮影を実践。本作のためだけに開発された65ミリカメラ用モノクロフィルムも駆使し、史上初となる“IMAX®モノクロ・アナログ撮影”に挑んだ。
そしてプロダクション・デザイナー(美術)にはルース・デ・ヨンク(「NOPE ノープ」など)、衣装デザインにエレン・マイロニック(「グレイテスト・ショーマン」など)、音楽は「TENET テネット」でもタッグを組んだルドウィグ・ゴランソンが名を連ねている。IMAX®をはじめ、ラージフォーマットで鑑賞するために創造された作品である。
【④:どれくらい評価されている?】
355ノミネート・333受賞…圧倒的な高評価 第96回アカデミー賞では最多13部門候補・最多7部門受賞。ノーラン監督が作品賞を初受賞
冒頭でも述べたが、本作は絶賛と言える評価を受けており、第81回ゴールデングローブ賞では、クリストファー・ノーランが初の監督賞を受賞し、作品賞(ドラマ部門)、主演男優賞(ドラマ部門/キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン) と最多5部門受賞となった。
さらに第96回アカデミー賞では最多13部門にノミネート(作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、助演男優賞、脚色賞、撮影賞、美術賞、編集賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアデザイン賞、音響賞、作曲賞)。ノーラン監督作品はアカデミー賞の作品賞と監督賞で受賞がなく、獲得すれば彼自身初となる。それだけに、両部門の争いに特に大きな注目が集まっていたのだ。
そして現地時間3月10日の授賞式では、7部門を受賞(作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・撮影賞・編集賞・作曲賞)。“無冠の帝王”と呼ばれたノーラン監督が、初の作品賞と監督賞を手にした。
総計355ノミネート・333受賞(3月11日時点)。ここまで評価されている理由は、本編に収められている。
【⑤:どんなテーマ?】
科学的発見と道義的責任のジレンマ。核兵器の恐怖。複雑なメッセージが画面に凝縮されている
「私が目指したことは、歴史の大転換期の絶対的中心にいた人物の、魂と経験の中に観客を導くことだ」と、ノーラン監督は明かす。人の心の奥底に迫り、オッペンハイマーの魂の細部に入り込むだけに、そのテーマは当然、ひとつだけではない。
世界を変えるほどの科学的発見と、一方で世界を破壊してしまうかもしれない道徳的責任、核兵器による根源的な恐怖。矛盾を抱えたオッペンハイマーは苦悩し、葛藤し続けるが……。
ノーラン監督「好むと好まざるにかかわらず、J・ロバート・オッペンハイマーは未だかつてない最重要人物だ。彼は良くも悪くも私たちが生きる今のこの世界を作り出した。彼の物語を信じるには、それを目にするしかない」
その言葉の意味を紐解き、そして実際に鑑賞すれば、「本作は善・悪どちらにも立たないスタンスで製作されている」と感じ取れる。批判はせず、称揚もせず、擁護もしない。判断するのは観客だというノーランからのメッセージが込められた本作で、あなたはどんなことを感じるだろうか。
【まとめ】その映画体験はいかに? あなたの目で確かめてほしい
以上、映画「オッペンハイマー」にまつわる5つの重要な事実をまとめた。“作品の詳細をよく知らない”状態から、“重要なポイントはおさえた”状態になれたのではないだろうか。
オッペンハイマーとストローズの視点をカラーとモノクロで描き、天才科学者の頭脳と魂に入り込んだ物語。キリアン・マーフィやロバート・ダウニー・Jr.らキャスト陣、クリストファー・ノーラン監督とホイテ・バン・ホイテマらスタッフ陣、300を超える映画賞に輝いた高評価、そしてオッペンハイマーの経験が訴えるテーマとメッセージ……。
実際に本編を目の当たりにした時、どのような映画体験となるのか。なぜこれほどの絶賛を受けているのか。3月29日、映画「オッペンハイマー」が日本公開される――。
※映画公開直前に掲載する本特集2ページ目では、本編を目撃した人々のネタバレなしレビューをご紹介します。