劇場公開日 2024年3月29日

「人間・オッペンハイマーを通して、当時のアメリカを視る映画」オッペンハイマー Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人間・オッペンハイマーを通して、当時のアメリカを視る映画

2024年4月21日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

「プロメテウスは神から火を盗んで人間に与え、そのために岩で鎖に繋がれ永遠の責苦を受けた」

J・ロバート・オッペンハイマーは、「原爆の父」と呼ばれる以外に「アメリカのプロメテウス」とも異名がつけられている物理学者で、本作ではキリアン・マーフィーが演じた。妻キティ役にはエミリー・ブラント、いずれもアメリカの俳優ではない。

その他、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、フローレンス・ピューなどを要所に配した。

オッペンハイマーを単なる学者としてではなく、人間として描きたかったという意思を強く感じたのは、

◆T・S・エリオットの代表作である長編詩『荒地』を読むシーン、
◆ピカソの『ドラ・マールの肖像』(←だったと思う、うろ覚え)を鑑賞するシーン、
◆クラシックのレコードを手にするシーン
が弦楽器のアンサンブルをBGMにしてインサートされるのに加え、

極めつけは、フローレンス・ピュー演じる共産党員ジーンとの濃厚な濡れ場である。時間こそ短いものの、全裸で演じる意味は、大学教授という職種とのギャップを強調するためであろうか。

あ、それでR15なんだな、とタネ明かしされた気分だった。

量子力学という新分野の研究に取り組み
ブラックホールの存在を理論的に証明し
左翼や組合、共産党に好意を示し
アメリカ政府から原爆開発リーダーに指名され
原爆を完成させ
その後の水爆開発には反対の立場をとり
ソ連のスパイ疑惑をかけられる…

さすがに幼少期には触れないが、成人以降のオッペンハイマーの半生を180分の映画で再現した。
脚本が良くできており、3時間の上映時間があっという間に感じた。

こむずかしい理論や学説はほとんど出てこない。

学者の功名心、政治家の栄達欲、男女関係、夫婦関係、弟への信頼、裏切らない友人と裏切る友人。。。

実話をベースにうまくまとめているし、
映像と音響もまるで人物の内面を擬態するように非常に効果的に使っている(いい例としては、オッペンハイマーの動揺を暗示するシーンでは、彼の背後の壁が地震の初期振動のようにカタカタと音を立てて動き出す)。SFならまだしも、実在する人物を扱う作品としては斬新ではなかろうか。
伝説の人・アインシュタインの使い方もうまいと思った。

印象的な内容をひとつだけ。。。

ロスアラモスに集結した学者たちの議論の中で、
「原爆を一発爆発させると地球全部が爆発するかも」
という懸念が提示される場面があった。もしそうなら、原爆開発は中止するしかない。
しかし、しばらくたつと、そうなる可能性は「ほぼゼロ(nearly zero)」とわかるのだが、誰も「完全にゼロ」とは言わない。

なるほど、
原爆実験する際、わずかながらでも地球滅亡の可能性を内包したうえで実行してたのね。
人間(アメリカ人)は狂ってますね。

その実験成功の場面は、本作のひとつの山場だ。

スクリーンが真っ赤に染まり、しばらくして大音響の爆発音が響く。
もちろん、実物とは異なるだろうが、
このような兵器が、広島と長崎に使用されたと想像しただけで、猛烈な悲しみに見舞われた。

記憶に残る作品だが、R15指定になるシーンを入れたことは理解に苦しむので、☆3.5

Haihai