劇場公開日 2024年3月29日

「冒頭で明らか、ダメ男オッピー物語」オッペンハイマー N.riverさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0冒頭で明らか、ダメ男オッピー物語

2024年4月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

難しい

開始早々、女性と深い中になるあの安易なくだりでピンときた。
こやつ、仕事しかできないダメ男だな、と。

その後のカラーパートでの聴聞シーンでも映像そのもの、包み隠さず公の面前で不倫を明かし、妻を傷つけながらもお互いの関係を信じて証言に現れる、と言ってのけるあたりなど、
アタマ良すぎるタイプに散見される、人としてアタマ、ワル、な展開に呆れてモノも言えかった。
そこは濁すか、否定するか、証言には来なくていいとむしろおもんばかるのが優しさでは。人の心がなさすぎて寒気すら覚えている。

高度な抽象を綿密と扱い、その中で正確さをつきつめる。
情緒を排した作業の日々に、消え失せたのはそうした優しさのみならず恐れもまたで、
恐れを知らないとは無謀であり、無謀こそ真に賢明な者なら徹底して回避する成り行きだろう。

あくなき探求心、研究の成果なのか、功名のためか、祖国への忠誠か。
いずれにせよ越えてはいけないそれが一線である、と芯から恐れを感じ取れなかった、
仕事に忠実なだけだった、感情薄い主人公の愚かさが徹頭徹尾、愚かしくも悲しみを誘い、そうじゃないでしょ、と言って聞かせたい腹立たしさを誘った。
最後、そりゃあ、後悔しても遅いし、ハメられても文句は言えないな、と。

またちょうど鑑賞前日、「アインシュタインが娘にあてた手紙」というものの存在を知った。どうやら都市伝説のようなものらしいが内容は興味深く、「愛もエネルギーなら科学の範疇」と唱える「インターステラー」の元ネタではと気づき、本作は真逆と「科学が愛を失った成れの果て」を描いているのではと感じている。本編、日本の立ち位置はその一部に含まれている、程度で、原爆の功罪というよりも、主題はもう一回り大きい気がしている。

三時間が短かくてびっくり。
バストアップの多用される単調な画面を、煽り過ぎず、引っ込み過ぎず、音楽がちょうどいい具合に飾っていてこれまたよかった。
被爆の映像を挟むことはむしろ、それだけで見る人の思考を止めるだろうから、いらないと私は思う。

N.river
N.riverさんのコメント
2024年4月11日

>Mさん
コメントありがとうございます。
作品解釈の足掛かりに加えていただけたなら幸いです。

N.river
Mさんのコメント
2024年4月11日

愛を失ったなれの果て、確かにそうかもしれないと、このレビューを読んで思いました。

M