劇場公開日 2024年3月29日

「人類滅亡に導く発明…被爆国の日本人はどう捉えたらよいのか?」オッペンハイマー bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人類滅亡に導く発明…被爆国の日本人はどう捉えたらよいのか?

2024年4月6日
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鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

難しい

アカデミー賞を総なめにした話題作、遅ればせながら鑑賞。

アメリカ人にとっては、核爆弾を発明し『原爆の父』と呼ばれる物理学者オッペンハイマーが、国家戦略へと巻き込まれていく数奇な運命を描いた史実物語として観るのだろう。しかし、世界唯一の被爆国の日本人にとっては、広島、長崎のあの惨状が殆ど触れられていない本作を、どう受け止めたらよいのか…。単純にエンターテイメント作品として楽しめる人は少ないのかもしれない。

しかも本来は、ドイツのナチスを倒すために発明された核爆弾が、ヒットラーの失脚、自殺によって、ドイツが衰退した結果、その矛先が日本へと変わったというのも初めて知り、改めて、日本にとっての悲運な史実であったことを理解した。

個人的に、鑑賞後に3つの見方があると感じた。
1つ目は、世界に先駆けて核爆弾を発明したアメリカが、星条旗の下で終戦の名の元に核爆弾を投下したことで、世界のリーダーとしての強い国のイメージを印象付けるもの。
2つ目には、核の恐ろしさを知らしめると共に、きな臭くなってきた現代の世界とこれからの世界に向けて、改めて、非核と反戦を訴えるもの。
3つ目には、太平洋戦争を終結に導いた核爆弾の発明者・物理学博士オッペンハイマーの栄光の陰にある、ヒューマンドラマとしての苦悩と葛藤、そして、サスペンス要素を組み込んだ国家的陰謀を描いたもの。
である。

物語は、核爆弾の投下を1945年8月を前後して、オッペンハイマーが、核爆弾の開発に至るまでの過程と、戦後には今後の水爆開発への警鐘を鳴らしたことで、ソ連のスパイ容疑者に仕立てられて、諮問機関に尋問される、2つのシーンから構成されている。前半部では、その2つのシーンが混在して描かれ、核物理学の専門用語も飛び交うために、凡人には、なかなか理解に追いつくのが難しかった。

しかし、いよいよ核実験が本格的に始まるシーンからは、それまでの布石もわかりやすく一つずつ回収し、見入ることができた。特に、トリニティー・サイトで7月16日に初の核実験が行われるまでの緊迫感や実験の衝撃的な威力の爆発シーンでは、怖さや不気味さに包まれる効果音、そして、放射能を感知するガイガーカウンターの様なノイズによって、気持ちが煽られる演出は見事だった。相変わらず3時間という長帳場のノーラン作品だが、最後まで入り込んで鑑賞できた。

出演者もなかなか豪華。主役のオッペンハイマーには、ノーラン作品では欠かせないキリアン・マーフィーが演じ、その妻にはエミリー・ブラント。他にもマット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr、ラミ・マレック、ケネス・ブライナー、ジョシュ・ハートネット等、主役級の俳優陣が脇を固めているの、見どころである。

最近ではウクライナとロシア、イスラエルにガザ地区、北朝鮮、中国…と世界中できな臭い状況が毎日のように報道されている。核保有国が、決して最後のボタンに手をかけない事を祈るばかりだ。

bunmei21
麻布豆ゴハンさんのコメント
2024年5月28日

日本もボーアやハイゼンベルグ、ローレンスの下で学んだ理研の仁科芳雄博士らに「二号研究」と称して原爆開発させてましたからね。日本にとっては文字通り国の存亡を賭けた背水の陣の戦争、もし先に開発に成功していたら間違いなく躊躇なく使っていた事でしょうね。。
この作品は原爆開発そのものについては、否定も肯定も擁護も弁明もせず、オッペンハイマー博士その人とルイス・ストローズ長官に焦点をあてて描いていますが、その物語の視点自体が十分に核の恐怖と反核の訴えになってる様に感じました。

麻布豆ゴハン
bunmei21さんのコメント
2024年4月7日

かばこさん(^^)コメントありがとうございます😊
広島、長崎の原爆の惨状を映し出さなかったのは、賛否両論ありますが、ノーラン監督は、そこを敢えて見せないで、イメージを持つことを狙ったのかもしれませんね。

bunmei21
かばこさんのコメント
2024年4月7日

3点のまとめ、とっても分かりやすいです。
仰ること、共感しまくりです。

2つ目の、
「核の恐ろしさを知らしめると共に、きな臭くなってきた現代の世界とこれからの世界に向けて、改めて、非核と反戦を訴えるもの。」

このあたりを、クリストファー・ノーランは敢えて声高に主張せず誘導もせず、材料をフラットに並べて観たヒトが自力でそれを考えるようにしむけたように見えました。

かばこ
bunmei21さんのコメント
2024年4月7日

小町さん
コメントありがとうございます😊
自分もみなさんのレビューから、この映画の訴えてくることの捉え方ぎ様々あり、考えさせられました。ある意味、それが本作のテーマなのかもしれませんね。

bunmei21
小町さんのコメント
2024年4月7日

共感ありがとうございます。
bunmei21さんのレビューに共感しまくりです。
3つの見方、私もそう思います。
皆さんのレビューを読んでこの作品の理解が深まっています。
考えさせられる事のある作品で日本で公開されて良かったように思います。

小町
bunmei21さんのコメント
2024年4月7日

ゆーきちさん
アメリカと日本では、見方もかなり違うのだと思います。いろんな意味で、現代の世界情勢に、警鐘を鳴らしているのでしょうね。

bunmei21
bunmei21さんのコメント
2024年4月7日

Movie Angelさん
科学者として、新たな研究、発見に力を注ぐというのは、理解できます。しかし、その裏に隠されていた陰謀に巻き込まれ結果なのでしょうね。戦争は人を人でなくしてしまうものだと思います。

bunmei21
ゆ~きちさんのコメント
2024年4月7日

共感ありがとうございました。

人それぞれの思いで作品を捉えましたが、こうしてみなさんのレビューで理解を深めることが出来る点で、この作品は成功したんでしょうね。

ゆ~きち
Movie Angelさんのコメント
2024年4月7日

オッペンハイマーが科学者として、原爆に興味を持った事、どう思うか是非聞かせて下さい。

Movie Angel
bunmei21さんのコメント
2024年4月6日

トミーさん(^^)日本の配給会社がなかなか手を出さなかったみたいですね。内容からもそれは納得。アメリカという国の怖さも感じた作品でした。

bunmei21
トミーさんのコメント
2024年4月6日

共感ありがとうございます。
反核の部分はあえて鮮明にしない様に配慮している作りだったと思います。軽々に描けないという気持ちも有ったのかもしれませんね。
実際の人物や出来事をあそこまで淡々と、商業作で描けて凄いと思いました。

トミー