「世界の終わりの始まりの物語」オッペンハイマー sumichiyoさんの映画レビュー(感想・評価)
世界の終わりの始まりの物語
原作小説は未読です。原爆の父として知られるオッペンハイマーの半生、特に学者としての人物像を時代背景も交えて描いた社会派作品でした。
冒頭、時系列に少し戸惑いました。が、徐々に理解できました。本作はただ史実を列挙した伝記映画でないと。技術的特異点で起きたとある顛末でした。
序盤、オッペンハイマーの若手時代の活動や交友を通じて人物像が伝わりました。行動的で革新的で感情的な姿は物理学者としてだけでなく、多くの人を惹きつける要因になったと思います。オッペンハイマーはどこにでもいそうな人気の大学教授みたいでした。
そして、マンハッタン計画へ。オッペンハイマーが主体となって開発を進めていた事実に驚きました。それも現代的なプロジェクトと言う形で。また、政治的な面や家族思いな面も含め、非常に人間味のあるシーンが続きました。でも、原爆実験の日の凄まじい光と音。あの光景を目にした後のオッペンハイマーの葛藤が描かずとも演技に表れていました。
オッペンハイマー演じるキリアン・マーフィは文句なしの主演男優賞の一言でした。態度や表情はクールでどこか艷やかだけど、目の動きと口の動きが物語る。特に、原爆投下後のスピーチで見せた憔悴した表情は目に焼きつきました。ストローズ演じるはロバート・ダウニー・Jrの政治家役も意外としっくり。アイアンマンくらい傲慢だったからかも。その他、豪華俳優陣が作品に色味を与えていました。
改めて、第96回アカデミー賞作品賞受賞おめでとうございます。原爆に関し、これまで被爆国の日本はもちろん、世界的にもタブー視されてきました。でも、戦勝国のアメリカにとって世界に自らの力を示し、間接的に多くの兵士の命を救った栄光の瞬間でした。情報のグローバル化が進んだ現代、様々な感情を超えて歴史共有ができるようになり、本作は描かれるべき時が来たのかなと感じました。
終盤、「兵器は使わずにはいられない」という言葉がでてきました。終わりの始まりの門を開いてしまった身として、終戦後のオッペンハイマーは何を思ったのか。原爆の父として人類の未来に何を見たのか。力を持ったアメリカを抑えられるのは、力を与えた者だけということなのか。それでも軍拡という時代のうねりに飲まれてしまうのだけど…。オッペンハイマーは軍人でもなく政治家でもなく学者として戦い続けた人物だったと知れてよかったです。
ある意味、ターミーネーターなどのSF映画や冷戦以降の戦争映画に多大なインスピレーションを与えた人物でもあり、改めて評価すべき人物であるとノーラン監督は訴えたかったのかもしれませんね。
そうなんですね。
地域や世代によっては、日本でも、原爆について学習する機会が少ない人たちもいるんですね。
自分を尺度に考えてはダメなんだなあ、と改めて感じました。
ありがとうございました。
コメントありがとうございます。
難しいところですね。なかなか客観的に見れない。私自身、原爆に触れてこなかった世代・地域で、上の世代も禁忌のように話さず。かつ90年代の洋画世代なので(うまく丸め込まれた世代なのか)、一概にオッペンハイマー(アメリカ側)が悪と断罪できず。理論の提唱者が予期できなかったか、開発者が中止しなかったか、実行者が選択を誤ったか、そもそも戦争が起こったから悪いのか。全容を知ると議論が尽きません。
ただ、問題提起にはなったかなと思います。アカデミーならなおさら。なんか復古主義の陰謀論的ですね。
「本作は描かれるべき時が来た」なるほどなあ、と思いながら読ませていただきました。
個人的には、なかなかオッペンハイマーを肯定的にとらえるのは難しいのですが、それでも、彼の人間的な面を見ることができてよかったです。