「血が沸騰し頭が冷める感覚」オッペンハイマー Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
血が沸騰し頭が冷める感覚
原爆は米国が開発しなくても誰かが開発しただろうと思ってたんだよね。必要な理論は大体そろってる感じもあったし。だから、しょうがないなって。
でもそれを、人類に対して使うかどうかは別だね。開発されたのが米国のこの時期でなければ、人類に対して使おうとは考えなかったかもと観てて思ったな。
米国は、人類に対して核兵器を使うという贖えない罪を犯したね。滅びる運命にある国なのかも。
物語は冒頭から「やっぱりノーランの映画だ」という感じで科学要素があるんだよね。オッペンハイマーがブラックホールの話をするところが顕著だけど。
あとアインシュタイン、ボーア、ボルン、ハイゼンベルクとビックネームが目白押しで出てくるしね。
オッペンハイマーの恋愛も面白い。天才の周りには変わった人しか集まらないのかという感じで、激しいね。
そして原爆開発に入っていくんだけど、物理学者は一様に『原爆は作ってはいけないのでは……』と思ってるんだよね。でも『ナチスに持たれるぐらいならば』というところで折り合いをつけて、開発に従事してんの。
だからヒトラーが自殺してドイツが降伏したところで、物理学者である前に人として、開発は止めなきゃなんだよ。本当は。
劇中でもそういう動きが描かれるね。
でもオッペンハイマーは、このとき政治屋になっちゃってんだよね。なので止められないの。
そして日本への原爆投下を決める。かなりお気楽に決めてるよね。
『日本は絶対に降伏しない』『早く終われば兵も家に帰れる』ってなんかノリっぽい感じで。
ドイツが降伏してファシズムの脅威は消えていて、日本が原爆を完成させるような目途はまるでない。
その状況で、人類に対して核兵器を用いるという禁断の決断に踏み切る覚悟はあったのかね。その決断の許可を、人類が得ることは、永遠にないよ。
原爆は広島・長崎に落とされた。
オッペンハイマーをはじめとする一部の物理学者は激しく動揺するけど、一般米国民の皆さんは大はしゃぎ。オリンピックで金メダル獲ったとかそういうノリだね。
ここで血が沸騰して頭が冷めた。
その後の話は「どうでもええがな、お前らなんて」と思いながら観てたんだけど、それでも描きこまれてて面白いね。
『自分の手が血塗られているように感じます』と言ったらトルーマン怒るけど、まあ、そりゃそうだね。血塗られたのは俺の手だよって話だから。
でもたぶん、米国民の手が血まみれになっちゃったんだろうな。
ストローズの駆け引きのところは面白いね。途中から味方でなくなるお付きの人良かった。
でもストローズの野望が絶たれたのは、ケネディのせいだとか「ふーん」だったな。
この話、原爆使用のところとか『本当にこれで良かったのか?』ってかなり抑制的に描かれてるんだよね。米国の良心を信じるというか。
それなのに「バーベンハイマー、ヒャッハー!」ってなっちゃうのも訳が分からない。
贖えない罪に対する罰を米国は受けちゃうのかな。