劇場公開日 2024年3月29日

「瓶の中に蠍は複数いる。プロメテウスの呪い。」オッペンハイマー コバヤシマルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0瓶の中に蠍は複数いる。プロメテウスの呪い。

2024年3月30日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

 内容は、1926〜1950年代アメリカ🇺🇸における人物J・ロバート・オッペンハイマーの人生を主観的に捉えた作品。原爆の父とも揶揄される彼の天才的頭脳による栄光と苦悩が描かれている。今までに無い原爆に対する🇺🇸の答えと感じられる様な複雑な作品。
 印象的台詞は、『世界は、瓶の中に🫙2匹の蠍を入れている様なものだ』太平洋戦争が終わり冷戦時代の大国を揶揄した最後の演説には🎤複雑な思いが毎回込み上げてきます。原爆の罪を知った上で科学者としての利己的な能力を使用した苦悩とそれでも原爆の問題を原爆で解決しようとした矛盾。玉ねぎ🧅の皮を剥く様に複雑で多面的な人物描写には驚きます。
 印象的な場面は、なんと言っても世界初の原子爆弾実験『トリニティー』の爆破の瞬間です。何故そう名付けたかは今は分かりませんが、何故か最後の審判的な感じを受けます。理性的には分かっているつもりですが『キレイ』と感じてしまいました。あの爆発の映像表現と音の迫力の没入感は恍惚にも似た感じがあります。自分の非人間性と子供の様な無邪気さの混ざる気持ちにさせられました。
 当時原爆の見解は世界初の核実験、何が起こるか分からない。大気中の空気が全て燃え尽き世界を破壊してしまうかも判らない状況で、原爆実験をしてしまう人間の性が、浮き彫りで何とも言えない気分になりました。
 印象的な立場は、『オッペンハイマー事件』ストロースとオッペンハイマーの立場です。結果アマデウスの映画のサリエリとモーツァルト様に、七つの大罪で最悪のものとされるENVY『嫉妬』によって、最終的にお互いの身を滅ばず事になる展開はリアルで根の深い面白さを感じました。
 3時間に及ぶ大作なので複雑に感じると思いましたが、終始オッペンハイマーの視野からの覗き見と言う事で分かりやすく感じました。オッペンハイマーの感じた時間と空間を超越した感覚に至るまで映像化と音にこだわった今までにない作品だと感じます。クリス監督自体が観客に迎合する気も無い芸術家気質なので、メイン登場人物が15人以上出る人間関係の構図の予備知識が、かなり必要な様にも感じました。テンポの良いカットワークで観る人を置き去りにしてしまう凄さを感じます。
 全体的に登場人物の老化具合や衣装やなりきり具合が全てマッチし、1950年代を覗き見した気分になりました。この映画で何を伝えたいか感じるかは人其々だと思いますが、自分は、『今に全て分かる』『瓶の中の二匹の蠍』が意味深に思えて仕方が無いです。既にパンドラ箱を開けてしまった人類の希望は、望むべきものは無いのかもしれません。

コバヤシマル