「原子力による兵器は世界を滅ぼす」オッペンハイマー Kappaさんの映画レビュー(感想・評価)
原子力による兵器は世界を滅ぼす
この映画はあくまでオッペンハイマーの伝記です。そして赤狩りを通して彼の人生を振り返るという形式をとっています。
よく広島長崎の描写がないと言われていますが、間接的でしかも効果的な表現はあります。投下について知った彼は自分がしたことに対して恐怖感を持っていますが、周囲の開発者たちとの反応の違いに戸惑っています。万雷の拍手とひな壇の足踏みの中、彼は原爆によって被災した少女の叫び声の幻聴を聞き、消し炭になった人の体の幻覚を見ます。
私は、直接的な広島長崎の描写ではなく、この間接的な恐怖感の表現の方が映画的に見事だし、原爆の恐ろしさが伝わると思いました。
インセプションやテネットのような洗練されたSF感がよく知られているノーランですが、今回はそのような絵はかなり少ないです。
ほぼ研究者や赤狩りの人がしゃべっているシーンに覆われています。
トリニティ実験の爆発は、今まで映画でみたどんな爆発より印象的でした。
ジーンという愛人がsexに集中していないオッペンハイマーにサンスクリット語を読ませながら挿入するシーンがあるのですが、刺激的でした。
追記
かつて私はこの映画がレッドパージが主題としましたが見直して考え方が変わったので訂正します。会話の多くはそのような政治闘争で覆われていますが、テーマはあくまで
1. 歴史への名の残し方
2. 原子力による世界の破壊
3. オッペンハイマーの後悔
です。大量の人間を殺戮したオッペンハイマーの後悔は、世界を破壊してしまうのではないかという悪夢に繋がるのです。
オッペンハイマーが存在しなくても、たぶん誰かがその役割を果たしたのだと思います。
オッペンハイマーが直接大量の人間を殺戮したわけではありません。では、実際に殺戮したのはエノラゲイのパイロット? それとも、原爆の投下のスイッチを押した人? それとも、その指示をしたトルーマン?
でも、やっぱりオッペンハイマー「も」「殺戮した」というべきなのでしょうね。