「ドラキュラへのレジスタンス」ドラキュラ デメテル号最期の航海 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラキュラへのレジスタンス
◉スタイリッシュとは言えない
ドラキュラが姿を露わにするまでの、暗い船内の緊張感は悪くなかった。湿っぽい土が詰まったデカい箱が出てきて、逃れ難い悲惨な運命も陰惨な儀式めいた殺りくとかも、展開に上乗せされて、期待はホラーに目一杯傾いていた。血を吸われて絶命、変形した被害者の姿が次々に出てくるはず。
でも、いきなり醜怪なドラキュラの生身が、貪欲に人の首筋に喰らいついたシーン以降は、悪魔の影に怯えるのではなく、ドラキュラ探しの展開になってしまう。
ホラーに対して、影とか遠目の姿とか、初めは人の顔形しているとかの、溜めばかりを期待してしまうのがいけないのかとも思うのですが。
更にこの映画のドラキュラは血に飢えた漂白の悪魔とは違って、力で村の民の血肉を搾取する悪の領主じみた存在らしく、これはホラーと言うより、悪魔と人の階級間闘争であって、まるで皇帝ドラキュラへのレジスタンスの物語のように感じました。生身の人間対生身の悪魔みたいな。「本当に怖い吸血鬼伝説」に惹かれていたので、そこはかなりの肩透かし。
◉生き残った者は
とは言え。
普通なら最後に命を助かるのは女性か子ども、あるいはその両方であるのに、この映画では、屈強の男たちは無論、少年も娘も瞳を白濁させて、太陽に焼かれて死んでしまう。悪魔としてだ。年老いた船長も助からない。そこはたくさんの悲惨と陰惨に満ちていた。
もう一つ、とは言え。
「風の音、海の音、皆の血管に流れる血の音が聞こえる」とは、悪魔の呟きとして何とも美しかったです。やはり人はどこかで悪魔に魅入られた挙句、喰らい尽くされる。
映画の最後、搾取側の皇帝は滅することなく、夜の街に身を翻した。ここは十分に暗澹とした物語の始まり。若き医師の戦いはこれからだ。