「毒にもならぬ、ましてや薬にも」コーポ・ア・コーポ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
毒にもならぬ、ましてや薬にも
今時でもこんな安アパートが残っているのだな。
場所はおそらく、大阪の鶴橋界隈。
木造二階建ての六畳一間のスペース、
トイレや洗面所、台所は共用、風呂は無し。
しかし、住人たちは月に一度の家賃の徴収日になると
事前に回ってきた情報により逃げ惑う。
まるで江戸時代の「おおつごもり」のよう。
落語であれば笑えるが、本作では面白いとも感じられないシーンが続出で
思わず口を開いてしまう。
物語はそうしたタイミングで、
更に住人の一人『山口』さんの首つり自殺が
発見されるところから幕を開ける。
作品は基本章立てになっており、
最近流行りの、各パートの最初に人名が提示され、
その人にまつわるエピソードが語られるスタイル。
実家を逃げ出してきた『辰巳(馬場ふみか)』、
恋人に暴力をふるってしまう『石田(倉悠貴)』、
常にスーツに身を包みヒモのように暮らしている『中条(東出昌大)』、
アパートの一室を使いストリップまがいを客に見せ日銭を稼ぐ『宮地(笹野高史)』。
オムニバスに近い形式をとりながら、
人物やエピソードを僅かずつ引き継ぎ、繋いでいく。
もっとも、その連携の仕方がかなりぎくしゃくしており、
あくまでも単話の積み重ねにしか見えないのが
なんとも辛いところ。
主要な四人のいわくの説明は、時に饒舌で時には不足。
言葉で過剰に語ってしまうのは、直近の日本映画の悪しき側面。
本来映像で見せるべきものを、科白にばかり頼り
却って余韻をへずっている。
それは『山口』の息子が訪ねてきた時の
『宮地』の言葉に顕著。
もっとも、その時の一言こそが本作の全体を貫くテーマであるよう。
家族のぬくもりや愛情に飢えながらも、
上手く表現できない、いかにも今っぽい。
または目に見える形で示して貰わないと
それを実感できない感性の薄さと。
実際は97分の短尺ながら
冗長な場面も多いため、かなりの長さを感じてしまう。
漫画なら面白いのかもしれないが
映像化した時に登場人物に魅力が感じられず、
感情移入もできないのが一番の難点。
不気味な雰囲気さえ醸す『東出昌大』や
浮薄に見えつつ真理を突く『笹野高史』以外の全ての役者が
上手くもないしキャラクターの造形に添えていないのも残念。