「無言の美学」ナポレオン ジュンさんの映画レビュー(感想・評価)
無言の美学
リドリー・スコット監督の全盛期の作品とは比べるべくもないが、これはかつての有った映画にあった良さ、美学をもう一度銀幕に掲げようとしたのではないだろうか?
もちろん、そうした取り組みは私たちに、例え映画ファンであったとしても悦楽を与えはしないが。
と語ったところで詮無いので良いところ列挙
ネタバレなので以後未視聴な方は適宜どうぞ
・ナポレオンとジョセフィーヌの初デートで、ナポレオンは多くを語らず、テーブルを動かし、ジョセフィーヌの座る椅子を近づけた。ナポレオンの人となりや、ジョセフィーヌとの関係を無言のうちに伝える素晴らしいシーンだった。
・戦争について。描かれる3戦のうち、前2戦ではナポレオン自身が斥候をし、相手を調べ、対策をして勝利に導いた。最後は斥候を自分ではせず、戦術も戦略も老いたナポレオンの姿を印象付ける。もちろん、後退した彼の頭髪も同時に哀愁を呼ぶ。
・皇帝にまで上り詰めるまでの華やかな経歴は、映像としても華やかであったり、小気味良いテンポで進む。それが、ジョセフィーヌの不倫とそこからの諍いであっても。しかし、皇帝になった後に流れる不穏で苦しみがいつも付きまとう展開と映像、この映画を忘れることはできなそうだ
・ルイ16世とマリー・アントワネットの治世から、「市民」による革命を大義に権力を手に入れた人たち、ナポレオンもその内の1人でもあったが結局は「玉座」に座ってしまう。「民主主義」の皮を被った「封建主義」はいずれ破れることを改めて描きたかったのだろう。もちろん、その経歴に巻き込まれて死んでいった多くの人命を忘れたくない。
・描かれる3戦のうち初戦と最後の戦いでナポレオンは一歩間違えれば死んでいた。という描写がされる。勝ち戦を続け、多くの功績を残し皇帝となった人物であろうと、ほんの少し違えば死んでいたのではないか、戦争による栄華など馬鹿らしいものだと監督は伝えたかったのではないだろうか?