「グラディエーター2への布石」ナポレオン tkさんの映画レビュー(感想・評価)
グラディエーター2への布石
悪くはなかったです。
史実に忠実であることを目的にした類の作品ではないです。
不正確さを指摘した歴史家へのリドリー・スコットの反応からも分かります(リドリー・スコットはそもそも今の人間が史実と考えているものも歴史の中で大きく脚色されてきたものである、といった反応を示しています)。
またグラディエーターの方向性でもありません。
どうしたってスペクタクルで英雄譚な娯楽大作を期待してしまいますが、その方向性ではないです。
ナポレオン(とその妻)に焦点を当てたヒューマンドラマです。
ナポレオンは人生の中で幾度も戦いを経てきたのでしょうからそれも映画の中でもちろん描かれていますがグラディエーターのように戦闘シーンが高揚する音楽で彩られているわけではないし戦闘そのものの中で感情移入しやすいドラマが描かれているということもありません。
あくまでナポレオンを描くための一つのパーツとして戦闘パートは淡々と描かれている印象を受けました。
国を愛する一人の軍人、妻を愛する一人の男。
この両側面を持つナポレオンという人間を等身大に描こうとした映画であると捉えました。
伴侶であるかに関わらず、女性男性に関わらず、愛する人間がいるならば多くの人が通常であればその愛する人との人生を選ぶのでしょう。
しかしナポレオンは自分の意思であったのか時代とその背景と立場がそうさせたのか運命であったのか国を愛する軍人の道を歩むことになります。
当然そこには悲劇や不条理が生じます。
本作、惜しいなぁ・・・と感じたのはこの部分の描き方がかなり最小限に留まったように感じられたところでした。
世継ぎ問題への対処方法など大きく響いたシーンもあったのですが、全体として歴史上の人物を主役にした創作・フィクションとして更に割り切って良かったように感じました。
しかし一本の映画として見ごたえは十分にあります。
淡々と描かれていると同時にリアルに描かれている戦闘シーン。
素晴らしかったです。
この時代の戦争は本当にこのように行われていたのだろうな・・・と感じさせられます。
陣形の変化、段階的に投入される歩兵騎兵大砲、これらが視覚的にとてもリアルに描かれています。
そして華やかな衣装や装飾。
これも素晴らしかったです。
戴冠のシーンは圧巻でした。
これらは2時間半という長丁場をあっと言う間のものにしてくれました。
上でも少し触れたリドリー・スコット監督、2000年公開のグラディエーター。
こちらは歴史の中で実在した時代を舞台に架空の人物(モデルは存在しているとのこと)を主人公にしたスーパーエンタメ作品。
歴史に脚色を取り入れた映画、この観点では今作ナポレオンと同じアプローチであったかと。
同アプローチによって齢六十ではグラディエーターという娯楽へ、齢八十ではナポレオンというヒューマンドラマへとフォーカスの変化を見せるリドリー・スコット。
今作ナポレオンは2024年公開を控えているやはり歴史+脚色で描かれる事になるグラディエーター2への布石になる作品かと。
果たしてグラディエーター2ではどちらの方向を示してくれるのか。はたまた全く異なる方向を見せてくれるのか。
個人的には1作目同様に徹底して娯楽作品として仕上げてくれたら嬉しいが、何にしても今作ナポレオンを見る限り衰え知らずのリドリー・スコット監督の作品として期待せずにはいられない。
tkさんのレビュー拝読して、配信で「グラディエーター」見ましたー!tkさんが書かれていた「ナポレオン」との違いがよくわかりました。ありがとうございます