「さて…どおしたものか。」月 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
さて…どおしたものか。
さて、作品についてだけども…皆様、熱演だった。
のっけから重苦しい雰囲気で物語は始まる。
あのご夫妻は、区切りをつけきれずにいたんだろうなぁと思う。時間も足りなかったのかもしれない。
宮沢さんが自問自答するシーンに圧倒される。同じように自問自答してた。そしてやっぱり彼の事は止めると思う。命がどうのと言う観点ではなく、一職員が決行していい事ではないからだ。
患者に意思表示が出来ないのならば、それを決断していいのは血縁者だけだ。患者の命と将来に責任を持てるものだし、その責任を背負っていけるものだけだ。
磯村氏も素晴らしかった。
台詞の抑揚といい佇まいといい…自身の正論を述べる人であり、他者にとってはそれが異常だと思える人だった。
二階堂さんに至っては、この人こそ天才だと思えてしまう。冒頭の宮沢さんとのカットバックから既にギリギリの人の目をしてた。
冒頭の旧約聖書の解釈は人によるのだろうけれど、作品を見て「え?」って思ったのが、彼による1人目の殺人の次のカットがご夫婦の「おめでとう」「ありがとう」ってカットだった。そして血塗れの彼にカットは移る。わざわざソレを被せる意図は何なんだと驚いた。
ニュースが流れるシークエンスでも、回転鮨のレーンの描写がある。
何故、こんな物の描写が入るのかと首を傾げる。止めどなく起こる悲劇の暗喩が回転鮨なのかと思ったりするが、それにしてお気楽な感じもしなくはない。
けれども何かハッピーな事とは紐付けられないような雰囲気でもあって…考えれば考える程、厄介な事しか浮かんでこないような気もするので追求しないでおこうと思う。
高畑さんの登場には驚いた。
面会に来るご家族がいる設定なんだと。
ここでまた話がややこしくなる。いや、話自体はややこしくはならないのだけれど、保護者の立場も考えねばならぬのかと憂鬱になったのだ。
思うところはありはするが、当事者ではないので何を言っても余計なお世話なので、自身の胸の内に秘めておこうかと思う。
⭐︎の評価はほぼ俳優陣の演技に敬意を込めて、だ。
作品自体は宮沢さんの自問自答のシーンが、そのまま監督の葛藤にも見えなくはなかった。
▪️余談
※当初、冒頭に書いていたのだけれど感想よりは「私見」に近いので前後を入れ替えた。
俺も精神病院に行かなければいけないのかもしれない。彼の考え方を真っ向から否定できない。
行動に移す程思い詰める前に俺なら辞めてはいるが。
自分の死生観による所も大きいのだけれど、それを他人に当てはめる程、乱暴ではないとも思ってる。
17万って給料に驚いた。
大変な仕事だと思うし、何故それを選んだのだろうと疑問にも思う。俺には分からないだけでやり甲斐はあるのだろう。職員の方々には使命感みたいなものもあるのかもしれないと勝手な事も想像してはいる。
臭い物には蓋、なんて事を作中で言われるのだが、ちょいと異論がある。確かに向き合ってはいないが向き合う必要が今の俺にはないからだ。
自分の人生だけでも精一杯なのに、わざわざ関わりのない問題を抱え込みたくはない。
俺には俺がやらなくちゃいけない事が山程あるんだ。
それを卑怯と言うならば、そうなのだろう。その他の事は自分が当事者になった時に考えようと思う。
理想と現実は違うし、理想を押し付けるのはもっと違うのだと思う。ただ、17万は安過ぎると思う。
俺はやれないし、やりたくない。
やらなければならない時はやらざるを得ないのだろうし、当事者達の苦悩や葛藤も知らずに、意見を述べる程愚かではない。
3.11についても触れてはいたけど、別に忘れてないと思ってる。電気代は上がってるし、復興税なんてものも払ってる。それが支援なのだと思ってるし、それ以上に協力出来る事も今の俺にはない。
再三言うが、抱え込まなくていい問題は、抱え込まない方がいいと思ってる。
「忘れる」って事にしたって、忘却は脳の防衛本能だとも思ってる。100受けた悲しみや傷を100持ったままでは生きていけない。0になる事はないけれど、せいぜい20くらいにはなってくんないと明日に進めないように思う。
作中では中絶と安楽死を同列に語ってはいたけれどいかがなものかと思う。「要らないから殺す」は両者ともにいささか乱暴すぎる。極論、根っこは一緒だろと言われても承服しかねる。そもそも両者とも赤の他人に決定権はない。故に彼が言う「安楽死させてあげる」なんて文言に正当性などないのだ。
本人から意思表示がなければ患者であれ赤児であれ、その内側も慮るしかないのは同じで…何を投影するかなのだと思う。
そう思い込みたいのだ。
笑顔になれば楽しそうと思いたいし、言葉に反応すれば通じてると思いたいのだ。
実際は分からない。なんせ確かめる方法がない。
目が開いてれば見えてると思いたいし、耳があれば聞こえてると思いたい。それは願望でしかない。
切実な願望だ。
後は、患者の行動なりリアクションなりを推し量る観点が間違ってる。彼の場合、自分を基準にしてはいけないのだ。彼の観点からすればそう思うのは至極当然ではあるけれど、元々動ける人間が10年寝てるのと、最初から動けない人間が10年寝てるのとは価値観からして違うと思うのだ。
彼が行った犯罪は世直しのような類いではなく、暴走した自己主張なのだと思う。
テロリストと似たようなモノだ。
決して容認できるものではない。
見て良かったとも思わないけども、見なければ良かったとも思えない衝撃的な作品だった。